035.トロイメライ/タンザキ

※ベテラン組嫁有前提につきご注意






世良さんとキヨさんがロッカールームの隅で何やら内緒話をしている。
大体にして予想がつくのは、チームメイトであり秘密の恋人でもある堺さんとガミさんのこと。
男同士でどうなんだとかチームの和がどうだとかで以前は彼らを奇異な存在として遠巻きに見ていたけれど、それも時間と己の心境の変化によって少しずつだけれど変わっていった。
今では、羨ましい、とさえ思える程だった。

(…俺は、違う、あの人らとは)

四角い心の端っこの方で黒い感情が燻り、俺はそれを紛らわせるように首を振る。
愛だの、恋だの、そんな目の前に見える幸せだけに手を伸ばしていい歳はもう過ぎたんだ。
そんな見てくれだけの感情の奥にあるもっと大事なものを、俺は尊重して、守って、譲らなければならないんだ。
そう自分の心に何度も唱え言い聞かせ、俺は荷物を整え足早にロッカールームを出た。



* * *



「お、赤崎、偶然」

「…丹さん、珍しいッスね」

「そっちこそ」

湯沢らと飯を食いに外出して解散した後、何となくクラブハウスに帰りたく無かった俺は一人ふらりとバーに入った。
一度だけ丹さんに連れられて来た、静かで大人な雰囲気が漂う隠れ家なバー。
そこでとりあえずウイスキーを頼みグラスに殆ど手をつけないままぼんやりと物思いに更けていると、珍しく一人な丹さんが来店したという訳だ。
…偶然にも。

「全然飲んで無いじゃん」

「飲みに来た訳じゃないッスから」

「…ここ、お酒飲むとこだけど、赤崎君」

一人になりたかったんスよ。
なんて、なんだかカッコ悪い気がして言えなかった俺は、「考え事したかったんス」と言って、俺の隣に腰を掛けた丹さんの目を避けるようにして誤魔化した。

「…丹さん、この際だから単刀直入に聞きますけど、あの人達のことどう思ってんスか」

「あの人?」

「堺さんとガミさん」

ガミさんは普段あんな感じだけど、二人は真面目でもっと頭がいいと思ってたッス。
氷が半分溶けたグラスを見つめたままそう言って丹さんの顔を見ると笑顔が消えていた。
丹さんは暫く黙った後、「あー、お前そんなこと考えてたの?」と後頭部を掻きながら苦笑い混じりに呟いた。

「何もプラスになること無いじゃないッスか、自分からリスクを背負って…馬鹿みてぇ」

「…馬鹿じゃ駄目?」

「は?」

「馬鹿でもいいじゃん、そりゃ俺達はもう良い年だし家庭も持ってるけどさ…彼奴等は多分リスクなんて思ってねーし、俺もそう思う」

大事なものそっちのけでのめり込むのは流石に不味いだろうけど、それでも、良い年した大人が馬鹿になってでも夢中になれるもんがあるのって、スゲー力になると思うんだよねぇ。
丹さんが頬杖を付いて紡いだ言葉には丹さんの心意が込められているようで、きゅうっと胸の奥がむず痒くなった。
丹さんは堺さんとガミさんが密かにチームメイトと恋仲にあることを認めて、それを否定しなかった。
それは行き場の無い無謀な感情を抱く俺にとって僅かな希望であり、同時に絶対に丹さんにだけは悟られていけない秘密にもなってしまった。

「…それってスゲー自分勝手ッスよね、結局は絶対に自分のものにはならないじゃないスか」

なんでこんな絶望と紙一重の恋愛に、キヨさんも世良さんも幸せそうに笑っていられるんだろう。
わかんねぇ。
どちらもが幸せになれない恋も、そんな恋をするあの人達も、あの人達を認める丹さんも。

「俺の勘違いだったら悪いけどさ…俺には赤崎が、自分は幸せな恋愛がしたいって言ってるように聞こえるんだけど」

そうなの?と年不相応に首を傾げあどけない表情を浮かべた丹さんは、カウンターの下でいきなり俺の掌に触れた。
予想外の丹さんの行動に驚きでピクリと跳ねた指先は、何事も無かったかの様に丹さんの指と重なる。
ほんの少しだけ触れた指先と指先とがどちらともなくじんわりと熱を帯びてきて、このまま気持ち諸とも丹さんに伝わって仕舞えばいいのに、なんて浮かんだ思考に内心で舌を打った。

「俺、実は結構嫉妬深いッス」

「へぇ…意外」

「そしてサッカー以外では守備的」

「…そうなんだ」

俺は互いが不幸になる関係を恋愛と呼んで、目先の幸せに笑うことなんて出来ない。
だから…丹さんとは、そんな風にはならない。
絶対に、なってはいけないんだ。

「赤崎、俺も実は結構中身はガキだったりすんだよね」

「…そうッスか」

「だから、拒絶されると凹む、凄く」

ぎゅうっと強く絡み合った指先から、こんな苦しい気持ちも全部全部丹さんに流れていって仕舞えばいいのに。
矛盾にもそう心の半分で願って、そして俺はその指からそっと手を離した。



end.



なにやらごちゃごちゃしたタンザキです^^;
互いに思い合うのにいろんなものを尊重するあまり結ばれない二人…タンザキは二人とも滅茶苦茶思い悩んでるといい(^p^)

サクセラやガミキヨには無いビターな美味しさを発見したのはいいけど…
果たして伝わっただろうか…(^ヮ^;)ドキドキ


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