004.オフの朝/若手組

“003.長い夜”の続編

急いで自販機で買ってきたポカリを手渡すと二人は感謝の言葉と共にやっと起き上がった。
がしがしと頭を乱暴に掻きながら眠たそうに何度目かの欠伸をした世良さんが、ポカリを片手にふにゃりと笑う。

「二日酔いだるいなー、赤崎は?」

「…元気に見えますか」

「あ、やっぱり?」

頭痛がちょっとするけど俺はまぁまぁ大丈夫かなーと枕を抱えながら喋る世良さんとは対照的に、布団に寝転んだまま顔をしかめてぼーっとするザキさんはまだ半分くらい夢の中のようで、世良さんの言葉もほとんど聞こえていないようだ。

「あ、何か食べますか?俺コンビニまで、」

「椿ー」

「あ、え、はい」

先輩が二人も部屋にいるもんだからどうしようかと悩んだ挙げ句に提案してみた俺の言葉は見事に遮られた。
内心でほんの少しだけへこんだけれど世良さんが来い来いと手招きをするから、俺は断る理由もなく誘われるがまま近寄る。
世良さんが横になっている布団の脇、立ったまま見下ろすのもどうかと思い目線の高さにしゃがむと、不意に手を引かれそのまま世良さんの布団に顔から突っ込んでしまった。

「お前外走ってきたの?…なんか太陽の匂いがする」

謝りながら慌てて体を引こうとすれば、すかさず世良さんの腕が伸びてきてそれを阻んだ。
すんすんと首元に鼻を寄せられ腰には両腕がきゅっと巻き付く。
軽くパニックになりながら小さな声で返事をすると、世良さんは満足げににへっと笑って「いい匂いー」と呟いた。
暫く世良さんにぴったり寄り添うようなかたちで身動きが取れずに匂いを堪能されていると、反対の方から違う腕が俺の腹部を擦ってきた。

「ザキさん?」

「体細いよな、スタミナの割に」

「う、ウス」

世良さんに抱き抱えられながらザキさんに背中や腹を触られる。
筋肉つけろよとかもっとたんぱく質を取れとか色々言われたけれど返事をするのが精一杯で思考が散漫してしょうがない。
昨晩に各々としたキスの事もありなかなか寝付けなかったからか、若しくは寝不足なのにも関わらず早朝からランニングをしてきたからかはわからないが、何だか今更ながら眠くなってきた。

(それに…何か、温かい)

世良さんの拘束から解放されて自由になった体を正面に向ける。
窓ガラスから零れる春のぽかぽか陽気と俺を挟むように寝そべる先輩達の体温とが相まって、俺を挟んだまま会話をする世良さんとザキさんに相槌をうっているうちに、いつの間にか俺は意識を手放してしまっていた。



「…おい椿聞いて、ん?」

「寝たッスか」

「寝てるな、気持ち良さそうに」

「…ガキかよ」

すやすやと寝息をたてる俺を半ば呆れ気味に見ていた二人もきっとその後直ぐに眠ってしまったんだろう。
例え意識は夢の中でも隣の体温との距離がぎゅっと近くなった気がしたから。
だから俺は無意識に何だか嬉しくなった。

そんな、オフの朝。



end



おまけ。

「椿ー入るぞー…って、まだ寝てんのか」

何だか無性に椿が心配になりオフ練ついでに様子を見に来たら、昨晩世良と赤崎を寝かせるために適当に敷いた布団に椿が加わってるのが遠目から見えた。
若手三人が川の字に仲良くくっついて安らかな寝息をたてている。
真ん中の椿は窮屈そうに体を丸めているけれど何だか幸せそうに見えて結局俺はそのまま引き返すことにする。

(あいつらは、あれでいいのか)

春の陽気の朝。
何だか俺まで温かくなった、そんなオフの朝。

(…でも男同士のキスは無いよな、やっぱり)

おまけend

キヨさんは若手の世話係^^*


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