032.dear/ゴトタツ

※原作捏造の為ご注意





カーテンの隙間から覗いてみた窓の向こうは白っ茶けていて薄暗く、夏の空も早朝だとこんなにもどんよりとしているんだと改めて知った。
雲はふわふわの綿菓子と言うよりは何重にも積み重なった綿毛みたいで、これはきっと一雨来るかなと未だ覚醒しきれない脳が呟く。
そうしてベッドに横たわったままぼんやりと先の見えない曇天を眺めていると、不意に背後から腕が伸びてきて俺の腹の辺りに巻き付いた。
何も言わないままその手の甲の上にそっと自分の掌を重ねると、ピクリと指先が一瞬跳ねて、そしてゆっくりと引っくり返えった掌は俺の指の合間に絡み付いた。

「起きてた?」

「少し前にな」

「…言えよ」

普段あまり甘えた素振りを見せない達海がいきなり抱きついてきたから寝惚けているのだろうかと思えば、彼は俺の寝込みを狙って然り気無くくっつきたかったようで。
達海は照れたような不貞腐れたような台詞を小さく溢すと、俺の肩甲骨の間に顔を埋めてぐりぐりと押し付けた。

「寝てよ」

「え、?」

「もっかい寝ろって」

「な…ん、」

いきなり何だよ。
と反射的に滑り出そうになった言葉をギリギリで飲み込んで、俺は暫し後にわかったと呟いた。
達海が急に頓珍漢なことを言うのは稀では無いし、実はその頓珍漢が単に突発的な発言では無いということも全て理解した上で、俺は言われた通りにゆっくりと瞼を閉じる。
そして。
どれくらい時間が過ぎたのかはわからないけれど。
ふと。
柔らかい温もりを瞼の向こうに感じた俺は、再び遠い意識の底へと達海の意のまま促されるように沈んで行った。



* * *



俺だって何の考えもなしにこんな風にいつもと変わらない達海との朝を迎えるのが正しいとは思わない。
昨夜もそうだ。
何処か贅沢なホテルをとって豪華なレストランで食事をして東京のきらびやかな夜景を見ながらゆっくり甘い一時を過ごすことも出来たんだ。
でも果たしてそれを達海が喜ぶだろうか。
きっと「女じゃねーんだし」と言って呆れ笑いを浮かべて、そして俺もそんな達海を見て「そうだな」と困った笑みを見せながら小さく肩を落とす…と、大概にして想像出来る好ましくない結末を予想出来るのは付き合いも長いからか。
若しくは、達海と二人きりで過ごす時間の大半が今いるこの俺の部屋であったからか。
半分が空っぽになってしまった部屋を見回してみても越してきた時と何ら変わらない部屋なのに。
こんなにも居心地が悪く、こんなにも胸がざわつくのは…改めて達海の存在を実感させられているようで悔しい。
だからといってそんな胸の内に秘めた真っ直ぐな気持ちを言葉にするには少し年を重ね過ぎてしまった俺は達海に伝えることもなく、互いに求めもせず拒みもしない、当たり障りのないあやふやな関係をだらだらと続けてしまった。
どちらかが…と言うよりは達海が会いたいと願った時、達海の姿を遠目に見て何かが不安定な時に、これは偶然の会瀬なんだと心の何処かで自分自身に言い訳をつけては温もりを分けあった。
だからだろうか。
気持ちを伝えることよりももっと先を求めることを覚えてしまった俺は、今やっとこうして姿がない達海を目の当たりにして、始めて行き場を無くした感情を口にするんだ。



* * *



ふと目を醒ますと、カーテンの隙間から見える空はほんのりと赤みを帯び始め先程までの厚い雲は跡形もなく消え去っていた。
腹には相変わらず達海の腕が伸ばされたままで、ただ眠りにつく前と少し違うのは、ぎゅうっと俺のTシャツの裾を握り締め眠りながら鼻を啜る背後の温もり。
肩甲骨のあたりのTシャツが少しヒンヤリするのも、きっと俺の背中越しに小さく丸まって眠る達海の仕業だろう。

(俺が眠っている間に、卑怯だぞ、達海)

そう胸中で溢して、達海を起こさないようにゆっくりと振り返り目の前の柔らかな頭を抱いた。
ふわふわと無造作に跳ねる癖っ毛に手櫛を通して額に小さく口付ける。
こんなこと数年の付き合いのだけど達海の前ではしたことないな、なんて自嘲気味に笑みが溢れて、そして不意に涙が溢れた。

「達海」

達海が俺の後ろで泣いていた訳が今こうして流す俺の涙と同じ理由だったら。
達海と俺の関係がもっと明確でストレートだったら。
俺はきっとコイツに行かないでくれと、いつもの他愛もない会話の中で口にしていたのかもしれない。

「…頑張れよ」

でもそれは否なる夢。
溢れるほどの気持ちを喉の奥へと押しやって、やっと絞り出した言葉はやっぱりいつもと変わらない日常。
俺は何時になったらこの気持ちを口に出せるんだろうとまるで他人事のように考えて、そしてもう一度、柔らかな髪越しに小さく口付けた。

(好きだよ、達海)

――達海は今日、イングランドへと旅立つ。



end.



原作捏造第2段!
またやっちまいました^^;

お互いに素直になれない若いゴトタツ…前に書いた『calling』の過去のイメージです(^w^)


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