028.気付きたくなかった/タン+ザキ

※ザキ→バキ前提



苦しい、痛い。
病気じゃないし怪我をしている訳でもないのに、たまにぎゅうっと引き裂かれるように胸の奥が痛むのは何故なんだ。
最近の俺はその謎の痛みを抱えながら日々の生活を送っていて、正直なところ結構参っていた。
サッカーしてても、クラブハウスにいても、ロッカールームで着替える短い間でさえもズキズキと否応なしに脈打つ痛み。
その痛みに耐えている時の俺は決まってイライラしていて、そしていつも何故だかその時に目に映るのが椿で、だから俺は毎回彼奴に八つ当たりをしてしまう。
椿のせいじゃない。
それを100%理解した上で俺は罵声を上げ彼奴をビビらせてしまっていた。
次に目に映るのは困ったように眉を寄せて恐る恐る俺を見上げる、子犬の様な椿。
この時になって俺は初めて『ああ、またやっちまった』と実感する。
少しだけ後悔して、でもやっぱりイライラして、まぁ次は気を付けようと思って気を取り直すけれど結局はまた同じことを繰り返して。
そんな下らないけれどどうすれば良いか解決策が見えない事を延々と繰り返していた。

そんな、練習後のある日。
珍しくも丹さんが俺を飯に誘った。

「なぁ赤崎ー、最近のお前なんか変じゃね?」

「変て、何処がどんな風にッスか」

「んー…いつにも増してイライラしてるとこ?」

「イライラ…は、してますね、確かに」

「そんで、椿にさ、あれは単なる八つ当たりなんかな?それとも」

「それとも?」

短い問答を繰り返しながら黙々と箸を進める俺を観察しながら、丹さんはウーロン茶を片手にゆっくりと口を開く。

「好き、とか?」

――カラン。
俺が頼んだアイスコーヒーの氷が小さな音を立ててグラスの中を転がった。
丹さんの言葉を特に深い意味を求めずに聞いていた筈が、たった二言の「好き」がストンと腑に落ちるたようにしっくりときて、思わず箸を止めてしまった。
咄嗟に上げた視線の先には、笑うも呆れもしない真っ直ぐな丹さんの瞳をがあって、ほんの少し動揺した俺は所在なく落ち着かない左手で結露したグラスの雫を拭った。

「好きって、そんな」

下らない。
そもそも男同士だし、チームメイトだし、彼奴は走りだけのチキン野郎だし。
頭の中で次々と噴出する否定の言葉たち。
思い付くままにそれを口に出して、そして睨むように丹さんを再び見ると次はちょっとだけ呆れた笑いを浮かべていた。

「赤崎って器用貧乏?」

「はい?」

「お前結構何でもそつなくこなしてるけどさ、意外とこういうのは疎いんだな」

「何スか、言いたいことははっきり言って下さいよ」

「だから、好きって事だよ」

赤崎少年は好きな女一人いなかったのか?
そう言ってウーロン茶を喉の奥に流した丹さんは俺の皿にこんもりと盛られた肉の山を箸で突ついた。

「椿見てイライラして、でも椿が他の奴と一緒にいるのにもっとイライラして、そんで必死に自分中で否定してさ…疲れない?」

「椿が誰といたって俺は別に、」

「はいはい、疲れるよね?そういうのはね、納得すりゃいい、理解すりゃいい、肯定したげりゃいいんだよ」

すると不思議にも自然と肩の力が抜けてイライラだってしなくなる。
新しく胸の奥がぎゅーっと痛くなることがあるけど、それは副作用だと思って、痛みすりゃ楽しめばいいんだよ。

「ドMじゃないスか、痛みを楽しむって」

「いや、まぁ、ニュアンスな、そういう」

「結局胸が痛いっつーのはそのまんまだし」

「お前たまに可愛いこと言うよな」

「…好きって、こんなんなんスか?」

「へ?」

「……」

丹さんには悔しいから絶対に言わないけれど、サッカー一筋の生活を送ってきた俺は今まで本気で人を好きになったことが無い。
だから好きって気持ちを知らないのは当然だと思う。
もし、仮に本当に丹さんが言うように、好きがこんなにも痛くて苦しいものならば。

「気付かない方が幸せじゃないスか」

「んー、そうかもなぁ」

「は?」

「まぁ楽しめるもんじゃないよな恋愛なんて、不器用な男にとっちゃ」

「…結局どっちなんスか」

「結論を言うと、恋愛を楽しめるようになったら大人っちゅーことだな!」

「……」

「何だよーその目は」

「そう言う丹さんは楽しんでるんスか」

「まぁな、その結果に丹波家ありだし、何たってアラサーですから」

20代間もない赤崎よりは嫌でも恋愛経験積んでるからなぁ、酸いも甘いも修羅場も忘れてしまいたい恥ずかしいことも。
そう言ってへらりと笑った丹さんは何処か幸せそうに見えた。

一々他人の世話を焼こうと首を突っ込む丹さんを正直最初は疎ましく思ったけれど、結局その『お節介』のお陰で恋とはなんぞやということを少し知り、そして自らが抱いていたイライラが単なる性格上の問題という訳ではないことと、その感情の矛先に椿がいたという事実を今ゆっくりと実感している俺がいて。
でも結局はなんだ。
チームメイトだし男同士だしだと最初に言った通り俺の気持ちのゴールまでには数多の障害だらけで、これから待ちうけるのはきっと辛いことばかりじゃないか。

「本当丹さんってお節介、俺たぶん余計イライラしますよ」

「えぇ!?お節介って酷い!優しさだよ優しさ!…まぁまた路頭に迷ってるようだったら飯連れてってやっから」

「そりゃ勿論責任取ってもらうッスよ、そもそも好きなんて気付きたくなかったんスから」

「んだよお前はまったくー!本当可愛くねぇなー」

「はは、それ褒め言葉ッスか?」



end.



終わりが見えないので強制終了(^p^)
タン→ザキ→バキ風味のよくわからん話^^
椿が好きなんだけれど何かと不器用な赤崎を面倒見てる内にあれ?ってなる丹さんとか禿げるw
家のザッキーは何故かピュア…かっこつけ五輪代表は何処へorz



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