024.calling/ゴトタツ

“伝言を一件お預かりしています
今日の午後7時、の伝言を一件、再生します”

『もしもし達海、元気か?暇な時でいいから連絡くれ、待ってます』

“ピーッ”

携帯電話から鳴った機械音と一緒に電源ボタンを押してそのままベッドに投げつける。
そして俺も携帯電話を追うように同じくベッドにダイブして枕に顔を埋めた。

毎日飽きもせず同じ時刻に留守番電話に伝言を残す後藤、本当よくやると思う。
その日その日で喋る内容がちょっとだけ違かったりして、俺の体調を気にする辺りも相変わらずだ。
渡英してから一度たりとも連絡をしていない俺なんかさっさと忘れて彼女でも嫁でも作ればいいのに。

(やっと解放されたんだ俺から、だからこれからは自分を一番に考えれば良い)

9時間も時差がある海を挟んだ異国にいる男の俺なんかと遠距離恋愛って、相当笑えるよ?後藤。
そう言おうと携帯電話を握り電話帳を開くけれど指先は通話ボタンを押せないし声は喉の先を通ってくれないで、俺は今日も情けないほどに乾いた笑みを溢して目を瞑った。

(声なんか聞いたら、余計なこと口走っちゃいそうだもんな、俺)

会いたい、なんて、そんなだせぇこと言えるわけないじゃん。



* * *



達海は昔からかっこつけだった。
人前で泣いたり怒ったり喚いたとこなんて見たことがない。
いつも色んな感情を胸の内に溜め込んでいるくせに、それすらわからないように無邪気な笑顔と気儘な行動で誤魔化してしまう、凄く意地っ張りで素直じゃない奴。
しっかりと二本足で立っているようでいてでも実は不安定、それは達海を近くで見てきた俺だからわかることだった。

(達海が電話をくれないことなんてわかりきってる)

達海の悪い癖。
それは俺の心配をして余計な方向に脳内を働かせて自ら距離を取ろうとするところ。
男同士だとか遠距離恋愛だとか下らないことに捕らわれているのは達海自身なんじゃないか?
そう伝えようと何度も電話をかけては繋がらない事に安堵して他愛もない伝言を残す俺も、大概にして情けない男だとつくづく思う。

(達海に突き放されることを怖がってんのは、俺の方)

もし電話が通じたとしたら。
向こう側から聞こえてくる達海の声にすがらずに冷静でいるなんて、そんなかっこつけたこと俺に出来るわけが無い。

(大人の余裕なんて端から無いんだよ、達海)



* * *



あれから幾年が過ぎて、気がつけば後藤からの留守電もいつの間にか無くなっていた肌寒いある日。
練習から帰って何気なく覗いたマンションのポストに、一通のエアメール(と言っても葉書だけど)が入っているのを見つけた。
住所はガタガタの英字なのに宛名は達筆な漢字で『達海へ』と書かれている。
ひっくり返すと故郷のチームと思われる選手達と一緒に写る、スーツを来た後藤の姿があった。

「…すっかり年老いちゃって」

フロントの仕事でもしているんだろうか、ユニフォームを纏った姿しか思い出せないのに何故か写真の向こう側で微笑む後藤のスーツ姿はとてもしっくりするから不思議だった。

『サッカー続けてんだろうな?近いうちに会いに行くから、それまで体に気をつけて…無理すんなよ』

そう短く綴られた文章は、まるでかつて聞いていた後藤の口調そのままで自然と顔が綻ぶ。
10年という果てしなく長い月日を一言も言葉を交わさないまま過ごしてきたというのに、こんなにも当たり前の様に染み渡る後藤の言葉はまるで魔法だ。

(相変わらず心配症は健在だし)

日付を見れば8月と記されていて、あぁもう3ヶ月もたってらと内心で小さく笑う。
そしてそのまま葉書をポケットにしまいこむと、部屋に戻る筈だった足を思い立ったように再び街へと向けた。

(意地はってかっこつけてた俺も少しは変わったんだってとこ、後藤に見せてやんなきゃな)

自らが作り上げてしまった見えない二人の壁を、いとも簡単に乗り越えてしまった後藤に。
大人になった俺も応えようじゃねーか。

「葉書は郵便局か?…どこだっけな」

懐かしの旧友、そして10年ぶりの恋人へ。

『イングランドでカントクやってます、タツミ』



end



イングランド生活捏造してしまった^^
ゴトタツの大人な感じを出したかったのよ…


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