002.普通でいいんだって/ETU

「まじでやるんすか!?…怒られないかな」

「大丈夫、可愛いから!ね、椿」

「え!…は、ウス」

「ウスって椿…俺は嫌っすよ」

「まぁまぁ赤崎もそー言うなって!」

ミスターETUの為だと思って!

そう言われてしまえば断るにも断れない。
各々眉を潜めたり慌てたりとリアクションは三者三様だが、世良・赤崎・椿の若手3人は渋々丹波と石神の言う提案に乗ることになった。



* * *



練習が終わった後、一人トレーニングルームで筋力を鍛えつつクールダウンをするのが俺の習慣。
その合間は自然となのか気を使ってなのかはわからないが他の奴らは来ないから、ガチャガチャと響く金属音を聞きながら脳内をも働かすことが出来る。
練習内容や試合前のイメトレとか諸々…考えすぎずに体が動くままに走れと言われても今まで培ってきた性格は早々に変わるものでも無いから仕方がない。
次戦はいつもより更に守備に気を配ってラインは下がり気味で行くか、と一旦バーベルを下ろした時彼らは不意に現れた。

「「コシさん!」」

重なった声に目を向けると若手三人組が綺麗に整列していた。
咄嗟に何事だと口を開きかけたが監督の言葉を思い出して、取りあえずは静観してみようと視線は彼らに向けたまま黙ることにした。

「き、聞いて、驚け!」

「…見て笑え」

「わ、我らコシさん一の子分!!」

…何なんだこれは。

椿がいきなり大声で何を言うのかと思えば、続けざまに赤崎がいかにも面倒くさそうな表情でぼそりと呟く。
そして世良が顔を真っ赤にしてとんでもない台詞を口にする。
一体何なんだ、一の子分て。

「「椿!赤崎!世良!はっ!!」」

彼らの目的が皆目検討がつかずにただ呆然と見ている内にとうとうピラミッドまで出来てしまった。
無反応の俺に彼らが息を飲むのが伝わって、さてどうしたものかと思考を巡らせたのちに、一番下の椿が苦しそうに呻いたのを聞いて助け出す事にする。

「あ、あの、コシさん」

「……」

「あ、あう、え」

(やややっぱり!怒ってる!!)

「…楽しかったッスか?」

眉を潜めたまま投げ掛けられた赤崎からの質問に顔を僅かにしかめると、彼はやっぱりなと溜め息を盛大に吐いて不意に声をはりあげた。

「やっぱり俺らじゃ役不足すよ!」

「ちょ、赤崎!何言ってんだよ!」

「帰りますよ、椿、世良さんも」

「えっ…と、ウス」

あわあわと慌てふためく世良を引っ張って、赤崎はトレーニングルームを出ていく。
椿も一度村越にぺこりと頭を下げて二人の後を追って部屋を出ていった。

「どういうことだ」

若手が部屋を出ていって誰もいなくなった筈の部屋に少し大きな俺の声が反響した。
向こうからのアクションを待とうと扉の方をじっと睨んだまま何も言わずに黙っていると、扉がキィと小さな音を上げて僅かに開いた。
その隙間から見えたのはサイドに跳ねた黒い髪。
予想通りの人物に俺は小さく溜め息をついて、でも何故だか自然と緩む口許が相手に見られないように俯き加減に彼らを招き入れた。



「ロッカールームん時、コシさんいつにも増してオーラが凄かったから」

「だからって、何で若手だ?」

「和みっすよ、若手ならでわの」

丹波と石神はロッカールームで真剣な表情で押し黙っていた俺を見て、何とか和ませようと考え若手に変な芸をさせたと言う。
丹波は芸のネタはおじゃる丸だと言ったが俺がなんだそれと聞くと酷くショックを受けたようで、そのやり取りに石神は朗らかな笑みを浮かべた。

「はは、でもコシさんが普通で良かった」

「だな!」

彼らはにっこりと微笑んで、トレーニングルームを後にした。

いつもなら一人黙々と筋トレマシーンを動かすだけのこの時間が、今日はやたらと人の出入りが多かったからか。
脳内を埋め尽くしていた思考の大半はどこかに消え去り、今はさっきまでのやり取りを簡略化したのがリプレイされている。

(普通の、俺)

安心したと笑った丹波と石神を思い出して、柄にもなく笑みが零れた。

(こんなとこでも考えすぎんな、ってことか)

監督が言った台詞が再び頭に浮かんで俺はまた不意に苦笑いを溢した。



end



おまけ。

「コシさんおじゃる丸しらないんだな…何かショック」

「はは、そんな世代違いました?」

(いや、俺とコシさん1歳しか違わないんだけど)


おじゃる丸を知らないサッカー馬鹿の真骨頂なミスターETU。


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