018.Catch me,if you can/ガミキヨ

今日、ロッカールームで衝撃的なことを聞いてしまった。
丹さんとガミさんの会話からつい俺の耳が拾ってしまった『あの子と先に抜けただろ、その後どうなったんだよ?』という台詞。
ガミさんと丹さんがたまに合コンをしているのは知っているし、ガミさんとチームには言えない関係を持っている俺もそれを承知しているんだから今更どうこう言うことでも無いんだけれど。

(お持ち帰り…ってことなのか、やっぱり)

ガミさんは30歳で独身でそりゃ結婚を意識してもおかしくない状況な訳で、寧ろ7歳も年下の男なんかとデキてる方が異様だってこともわかっているつもりだ。
でも女々しい事なんかガミさん本人には絶対に言いたくないけれど、やっぱり本音を言えば女を抱いて欲しくないし合コンも出来るだけ控えて欲しい。

(…なんて何様だっつーの、俺)

ガミさんを縛ることはしたくないけれど放って置かれるのも何だか寂しい…何て口が裂けても言えねーよな、とクラブハウスを一人歩きながらぼんやりしたまま帰路へと着いた。



* * *



「清川いるかー?お邪魔しまーす」

晩飯の準備のためにキッチンに立っていた俺は、玄関のチャイムと共にいきなりやって来た男にはぁっと溜め息を吐いた。

「来るときは連絡下さいって、いつも言ってんじゃないッスか」

「いやー丁度近く通ったからさ、清川の顔を見にね」

「…飯食べたんすか」

「そういや腹減ったな、なんか良い匂いするし」

「食ってくんだったら、食器出しといてください」

我ながら言うことが可愛く無いよななんて思いつつガミさんを見ると「あいよー」と暢気に返事をして最早ガミさん専用になってしまった食器を並べていたから内心で少し安心する。
日中の会話が未だに脳内をぐるぐると駆け巡っていて、ガミさんの顔を見たらつまんねぇこと言ってしまいそうだと考えていたら早速来るんだもんな。

「なぁ、清川」

「うわっ!何スかいきなり!」

考え事をしながらフライパンで炒めものをしていると不意に超至近距離で背後から声をかけられてつい驚きで大きな声を上げてしまった。
俺より2センチだけ背が高いガミさんはそんな俺の動揺なんかお構い無しに背後から腕を回してきて俺の腹を撫でながら耳元で小さく呟いた。

「怒ってる?」

「何で、別に怒ってなんか、」

「…もしかして合コンのことか?」

そう言って髪を掻き分けて露になった俺の項に唇を寄せる。
勘が良いガミさんはきっと俺の不躾な態度で気付いたんだろうけど、だからって自ら墓穴掘るか?普通。

「…お持ち帰り凄いッスよ、俺は度胸ないしそもそもモテないし」

「…ん?」

「ガミさん黙ってたらかっこいいし世話焼きだから、女の子にも評判いいんじゃないッスか?」

「清川、なぁ」

「可愛くもないし況してや男の俺なんかと付き合うよりかは、っ」

言葉の途中で背後から伸びてきたガミさんのゴツゴツした掌がサッと俺の口元を覆った。
そしてふぅっと息を一つ吐いて、口元の手はそのまま、もう片方の手で俺の体を抱き締めるといつもの緩い感じとは違う意思が篭った声で呟いた。

「それ以上は言うな、そんな言葉聞きたくない」

それに、清川だって本気でそんなこと言ってんじゃないだろ?
そう言って俺の体に回した腕に力を込めてガミさんは俺の項に顔をすり寄せる。
ガミさんに酷い事を言ったのは俺なのに、寧ろガミさんが必死に放すまいと懇願している様で、申し訳ない気持ちと自己嫌悪心がぶわっと沸き上がった。

「…持ち帰ってないよ、丹さんが言ってた子は早く帰るって言ってたから送っただけ、俺も退散したかったからよ」

「え…俺、」

「清川さ、言えよ何でも」

サッカーん時みたいに自己表現しろよどんなんでも俺は受け止めるぜ?

そう言ったガミさんの顔は見ることができなかったけれど、きっととても優しい笑顔を浮かべていたんだと思う。
言葉を聞いた途端ぎゅうっと締め付けられるように痛かった胸は、しょうもない嫉妬や焦燥感を抱いた俺自身をたしなめるようで。
大人で余裕があってかっこいいガミさんの事だから、いつでもどんな時でも俺ばっかりが追い掛けていると思っていたけれどそれは独りよがりな考えだって初めて理解することができた。

「俺さ、よくマイペースに見られるけど、結構気にしてんのよ、清川のこととか」

「…ウス」

「だーって俺もう30だぜ?7歳年下ってだけで十分焦んのによー」

「焦る、ッスか?」

「そ、追いかけっこしてんのはお互い様ってこと」

だから言いたいことは言い合った方が良いってことだな!
そう一際明るく言い放つと、ガミさんは俺の顎に手を添え後ろを向かせた。
優しい表情をしたガミさんと目が合う。
そしてふわりと唇を交わしゆっくりと堪能した後、再び目を合わせる。
自分に対する情けなさとガミさんに対する申し訳なさで曖昧な表情しか出来ない俺をじっと見つめたガミさんは、やがてニカッと笑い正面から俺をぎゅうっと抱き締めた。

「清川は真面目だな!」

「…はぁ?」

「気にすんな気にすんな!こんくらいの嫉妬、寧ろ嬉しいくらいだからさ」

「〜っ!べ、別に嫉妬じゃ!」

さぁ飯食おうぜー腹減ったー、とのんびりした口調で言っては無邪気に笑うガミさんは俺からすればやっぱり大人で、でももう以前の俺みたいに下らないことでくよくよ悩む必要は無いってことがわかったから。

(互いに追いかけっこ、か)

たまには大人なガミさんを困らせてみようかと、そんなガキっぽいことを考える俺のことを実は追い掛けていたガミさんの存在に何だかほっこりした気持ちになった、そんな日。



end


ほんわかスウィートガミキヨにキュン死寸前(^p^)


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