013.irony/タンサク

※堺と丹波のETU若手時代偽造話の為注意



正直数人でつるむのは苦手。
一人のが勝手がいいし気を遣わなくていい。
そう思って今まで過ごしてきたし、サッカー主体の生活をする上でチームメイト以上の存在なんか要らないと思っていた。
…思っていたのに。



* * *



「丹波この後飯行かねー?」

「いいッスねー」

練習が終わり先輩達がロッカールームを去った後、新人であり若手組の俺達はようやく空いたシャワールームで汗と土埃で汚れた体を洗い流していた。
そんな時ふと聞こえた声は1つ年上の同期の奴と、同い年の同じく同期の丹波。
シャワーの水音が響く薄い壁越しに二人の会話が聞こえて、他人もいるってのをちょっとは考えろと少しイラつく。
そして俄に会話の内容が個人のプライベートなものになってきて、内心で苛々しつつさっさと洗って出てしまおうと思い頭からお湯を被った時、不意に耳に入った言葉に思わず手が止まった。

「堺ってさー何か絡み辛らいよなぁ」

無愛想っつうか、常にイライラしてるみたいで他人寄せ付けない感じするだろ?
あんなんでチームプレー出来んのかって思わねぇ?

不意に耳に入った言葉は頭上から降り注ぐシャワーの音なんか諸ともせず直に届いて、単に驚きだけじゃ無く他のいろんな感情がぶわっと湧いてシャワーを浴びたまま俯く。
あいつらの声なんて耳障りだから掻き消してくれ。
そう都合良く願うけれど、俺が隣にいることに気付いていない二人の会話は更に続く。

「んー、そうッスか?」

「お前話したことあんのかよ、彼奴とタメなんだろ?」

「あ、そーッスね確か」

でも俺あんまり気にしてないッス。

そう丹波は告げた。
俺と同い年で同期だけど、俺と違い性格が明るく誰とでも気さくに接することが出来る社交的な奴。
俺とは正反対だ。
今まで俺は自分の性格を呪ったことが無いし、自分の行動は全て己の理にかなっている事だから否定されてもどうも思わない。
…けれど。
心の何処かにさっきの突き放すような丹波の台詞が妙に突き刺さって、ズキズキと後をひくように痛い。

(…ちくしょう)

誰にどう腹が立つのか何がどう悔しくてこんなに心が痛いのか俺には全然わからない。
ただ、シャワーを頭から被ったままぼんやりと聞こえる二人の会話を聞きながら俺は情けなくも佇んでいることしか出来なかった。






ロッカールームの扉を開閉する音が聞こえてハッとしてシャワールームを出た。
どれだけぼーっとしてシャワーを浴び続けたんだろう、指先は既にシワシワになっていて何だか頭もクラクラする。

(何やってんだ俺…)

そう内心で呟きはぁっと大きな溜め息を一つ吐いてロッカールームに戻ると、思わぬ人物がベンチに腰掛けていて心底驚いた。

「堺ってシャワー長いのな〜」

俺もう着替えも全部済んじゃったぜ?

そう言ってにかっと笑うのは、先程までシャワー室で違う奴と飯食いに行くんだとかを話していた筈の丹波だった。
何でまだ一人だけで残ってんだと頭に浮かんだ率直な疑問に応えるかのように丹波は一人ペラペラと喋る。

「そういえばさ、俺ら同期でタメなのにそんなに話したこと無かったろ?折角だから飯行かねーかなって」

アイツとの約束はどうなったんだよと聞きたいがそしたら俺が盗み聞きしたように思われるからあえて言わないけれど、でもそんな事より一番引っ掛かるのは。

「別に仲良くする必要も無いだろ、それに」

大して気にしてねー奴と飯食ったって不味いだけだろ。

ハンガーにかけて置いたTシャツに袖を通しながら吐き捨てるように呟いた。
本当はこんなこと言いたいんじゃない…なんてそんな女々しいことはこれっぽっちも考えちゃいないがでも口に出してみて少しだけ後悔する。
丹波に背を向けているからコイツがどんな顔をして俺の言葉を聞いたのかはわからないけれど、大体は想像がつく。
今までだってそうだったからだ。

(別にこれといって何とも思わない、いつものことだ)

そう半ば諦めに近い感情に自ら押し流されようとした時、それはまた期待を裏切るような暢気な返事が返ってきて俺は思わず呆然としてしまった。

「俺さ、別に堺がコミュニケーション能力が足んないのとか気にしてねーの」

「…は?」

「サッカーすんのに性格まで指示されんのっておかしいよな、ツンデレは堺の特徴だし」

個々の長所短所を生かし補い合うのが理想のチームって俺は習ったぜ?と言って朗らかに笑う丹波。
驚きで彼の言葉を理解するのに時間が少しかかったけれど、それは今までに貰ったことが無い優しい言葉だった。

「お前、気にしねぇって、」

「つまり、そーゆー意味」

シャワールームの壁やっぱ薄いんだな、堺盗み聞きしただろと悪い笑みを浮かべた丹波に俺もつられて薄く笑みを溢す。
コミュニケーション能力不足とかツンデレとか今更になってその勝手な物言いに気付いたが、それよりも胸をぽかぽかと温める心地よい不思議な気持ちに自然と頬が緩んだ。

(今まで会ったことがねぇ、こんな変なやつ)

「…俺はサッカーに真面目なだけだ」

(丹波、聡か)

「ははっ、見てりゃわかるって」

(コイツとはチームメイト以上に、)

「…行ってやる」

ぽつり呟いた台詞に丹波は一体何の事だと首を傾げたから溜め息混じりにそっぽを向いて飯食いに行くんだろ?と聞くと途端に困ったように笑った。

「お前、そんな事で一々照れんなよ」

「べっ、照れてねぇ!」

コイツとならチームメイト以上に大切な仲間になれると、そう信じることが出来きる気がした。
そんな、出会い。



end



タンサクフラグ建築完了^^

でもサックは若気のままに全力でフラグを破壊→そして大人になって余裕が出てやっとサクセラとして幸せ

…な康の妄想話^p^
康の中ではタンサクは互いに良き理解者です★


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