017.可愛い人/ジノザキ

どうでも良い奴らの前ではいつだってかっこ良くてクールな自分でいられるのに、どうしてか彼奴の前では上手く自分を着飾ることが出来ないッス。
そう言って王子を見るとその端正な顔が驚きの色を浮かべていて、その時になって初めて自分が大変な墓穴を掘ったんだと気がついた。
慌てて誤魔化そうとするもその行為自体が更に俺の言葉に現実味を与えるばかりで、情けなさに項垂れる俺の隣でその俺らしくもない言動の一部始終を眺めていた王子は顎に手を添え何かを理解したのか頷く仕草を見せた。

「ザッキーも人の子だったんだね、良いことだと思うよ」

「…は?何言ってんスか王子」

「それはつまり、好きな子の前だと素直になれないってことでしょ?」

違うのかい?
そう言ってふわりと表情を緩めた王子はアンダーを脱いで白いシャツに袖を通す。
ボタンをしめながら小さく「よく思い出してごらんよ、ザッキー自身の事なんだからね」と呟き、王子は鼻唄を歌いながらのんびり帰り支度を進める。

(好きな子の前で素直になれない…そんなガキじゃあるまいし)

確かに昔からサッカー一筋で青春を全て捧げてきたっていうのは事実だからまともに恋愛経験なんて無いけれど、それでも今まで何事ももそつなくこなせる器用さで人間関係も上手くやって来たんだ。

(今更素直になれてないって言われても、そりゃ実感わかないよな…)

思考を巡らせていたせいで止まっていた手を動かし練習着を脱ぐ。
シャワーは帰ってからでいいか取りあえずさっさと着替えようと、ハンガーにかけて置いたTシャツに袖を通しふぅと息を一つ吐いて、そして再び王子を見た。

「借りに素直になっていないとして、じゃあどうすればいつもの俺でいれるんッスかね」

「…今日のザッキーは可愛い気があるけど、君らしくないね」

「はぁ、まぁそう、」

「それが、いいんじゃないかな」

え?意味がわかんないッスよ。

そう繋がる筈だった俺の言葉は、不意に近づいた王子の唇にフワリと塞がれてしまった。
触れるか触れないかのギリギリのキス。
驚きで呆然とする俺を見た王子は満足そうに微笑むと、ハンガーにかけてあったジャケットを素早く羽織りカバンに手をかけた。

「ここからは自分で考えたまえ、全部教えると飼い犬が馬鹿になってしまうからね」

そう言っていつもの優雅な仕草で一度手を振ると扉へと向かった。
王子の言葉の真意が未だ掴めない俺は顔をしかめたままその所作を眺める。

(それが良いって、わけわかんねぇ)

王子が言う言葉はいつも隠喩されていて俺には理解がし難い。
表面の言葉のまま受け止めることは出来ても、その裏の気持ちや思いなんかは考え出したらきりがないじゃないか。

「一つだけ、ヒントを与えようか」

「…はぁ」

「格好良いのが、格好良いことでは無い時もあるんだよ、ザッキー?」

じゃあ僕はメアリーが待っているから失礼するよ。
そう言い残して俺の反論も聞かずに王子はロッカールームを後にした。
出ていく際に見せた王子の微笑みは、やはり何か真意が含まれているようだったけれど結局俺にはわからなかった。

(かっこつけなくても良い時があるって事なのか…?いや、それよりも)

いつの間にか俺の脳内の思考は最初の小さな悩みから王子の言動の謎に切り替わっていて、言葉やキスの意味が理解出来ない俺は再びぐるぐると思考回路をさ迷う羽目になってしまった。



end



初ジノザキ…!
康思考ではジーノはBL非対応、ザッキーは総攻めだから難しかった…頑張ってこんなです(;ω;)

今回はジノ→ザキで、ザッキーがまんまとジーノの罠に嵌まっちゃいました、ジーノのことで頭を一杯にさせるっていうww
ジノザキは恋人未満の良い先輩後輩関係だといいよ^^*



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