009.隣の芝/ザキ→サクセラ

負けず嫌いなのは昔から。
サッカーは勿論誰にも負けたくないし実際に今までテクニックやスタミナ等を含めても誰にも負けたことが無いと思う。
日常生活の上でも何かと周囲の奴らが気になって、その度に絶対に負けたくなくて、実際は裏で滅茶苦茶努力するんだけれどそんなかっこ悪い姿は見せたくないから、俺は毎回何食わぬ顔であっさりと勝利を得るようなそんな素振りをしていた。
昔はそんな自分がかっこいいと思っていたからの行動だったけれど、今考えてみればただの性格上の問題なのかもしれない。
隣の芝は青く見えるって言葉があるけれど、俺はそれを見て内心で妬むだけの無力でみみっちい人間では無い。
寧ろそれを好機として受け止め、その上で何の気も無さそうに更に青い芝を手に入れる、それが俺のやり方であり生き方だ。



* * *



午前練だけの日、練習を終えて寮に戻りとりあえずと溜まっていた洗濯物を洗濯機に放り込み一息吐いた時、やっと携帯電話を忘れたことに気がついて愕然とした。

(ロッカールームか)

携帯電話なんて普段はあまり使用しないからとスポーツバックに入れっぱなしが多いんだけれど、今日は練習後のロッカールームで丹さんや世良さん達が騒いでいた『ブサイク写メ対決』というのに強制参加させられて使用したんだった。
ふと脳裏にその変な遊びに白熱したあの人達の馬鹿笑いが浮かんで腹がたったけれど、イライラしててもしょうがない。
面倒だけれどそう大した距離じゃないし車で行けばあっという間だから、さっさと用事だけ済ませて帰ってこようと俺は車のキーを片手に部屋を出た。



選手がいないクラブハウスは当たり前だけどやっぱりしんとしていて、耳を済ませばやっと後藤さんや永田さん達の声が聞こえる程度だ。

(結構、新鮮かもな)

クラブハウスにいるときはいつも回りにぎゃあぎゃあと騒がしい連中がいるもんだから、たまには静かなのも良いかもしれない。
そんな自分らしからぬ暢気な事を考えながら、外気より僅かにひんやりと冷たい建物の中を、俺は真っ直ぐにロッカールームを目指して歩いた。

(…あれ、ドアが閉まってる?)

ロッカールームは熱気と匂いが籠らないように使用する選手が居ない時は開放しておくのが暗黙の了解にになっているのに、何故だかきちんと閉められている。

(こういうのは大抵、椿か世良さんあたりだろうな)

おっちょこちょいの二人が慌てて部屋から飛び出す様を毎日の様に見ているからだろうか。
頭にふと浮かんだ彼らのワンシーンに、はあっと小さく溜め息を吐いてドアノブに手をかけると、そこには予想外の人がベンチにぼんやりと座わりこんでいた。

「あれ!?え、あ、赤崎!?何で…、え?」

ドアを閉める音に驚いたのか大きく体を飛び上がらせた世良さんが慌てた様子で挙動不審に俺を見上げた。
世良さんはシャワーでも浴びたのだろうか、いつも無造作にあっちこっち跳ねている髪が今はしっとりと濡れていて、更に上半身には何も纏っていなかった。

「まだ帰って無かったんスか」

「あー、うん、これから帰ろうとしてたとこ」

何かあちぃからもう一回シャワー浴びちゃったと言って世良さんは笑った。
スポーツタオルでガシガシと乱暴に髪を吹いてはぶるぶると頭を振って飛沫を飛ばす姿はまるで子犬のようで知らず知らずに頬が緩むのを感じハッとして眉を寄せた。

「で、赤崎は何で戻ってきたんだよ」

「忘れ物ッスよ、何んすか世良さん、俺が戻ってきちゃいけない理由でもあるんスか」

いつも通りに刺々した台詞で返し何となく世良さんを見ると、予想以上に慌てふためいた様子で挙動不審に陥っているから何故か俺まで驚いてしまう。

「なんスか…図星?」

「えぇっ!?あ、え、ちっ違う!!あは、あはは!!」

強張った表情で変な笑い声を上げる世良さん。
大袈裟に身ぶり手振りをしてわたわたする世良さんをじっと冷めた目で観察していると、ふと目に入ったのは首元に付いた赤い傷。
この人の事だからぶつけたか虫に刺されたかしたんだろうけど、しかし際どい所に付いたもんだな。
…際どい所に、傷痕?
……。

(あれ、傷…じゃないのか?)

未だにあたふたする世良さんをの肩をガシッと掴んで間近で確認してみる。
世良さんは驚きでぎゃーっと奇声のような悲鳴を上げたけれどそんなの関係ない。
ぐぐぐっと無理矢理近づいて見たそれは、紛れもなく傷や虫刺されなんて可愛いものではない、寧ろ世良さん=(イコール)とは考えづらいとある存在の痕跡だった。

「世良さんここ、赤くなってますよ」

そう言って首筋を撫で上げると世良さんは途端に顔を真っ赤にして固まってしまった。

ニヤリ。
世良さんの首についた痕とシャワーを浴びていたことと、更に上げるとすればロッカールームに来る前に関係者専用駐車場の出入口ですれ違った白い車の運転手が紛れもなく堺さんだったってこと。
別に知りたくも無かったし知る必要も無かった思わぬ事実の偶然の発覚に、世良さんをおちょくる口実が出来たと内心でほくそ笑む。
ETUのベテランFWを出し抜く事と馬鹿で可愛い先輩を落とす事、その二つのアクションをお越す機会を向こうからわざわざくれたんだから便乗する他無いだろう。

「あか、さき…?」

世良さんは悪どい笑みを浮かべる俺を見てかなりビビっているようで恐る恐る逃げようとしたが、そんなことを俺が許す筈もなく未だ露出したままの世良さんの細っこい腰を引寄せその耳元に唇を寄せた。

「堺さんとやったんスか?…キスマーク、気づいてるんだったら隠して下さいよ」

「やっ…てな、っ!赤崎!やめっ」

しらを切るつもりなのか必死に首を振る世良さんを責めるように、キスマークを舐め上げそのまま首筋に噛みつくと更にイヤイヤと首を振る。

「皆が使うロッカールームで盛るなんて二人とも最低スよね…それとも世良さんが誘ったんスか?」

うっすらと割れた腹を掌で撫で上げると小さな悲鳴を上げて世良さんは身を捩った。
違う違うとひたすら否定を繰り返すその瞳は不安そうに揺れて俺を見上げる。

(もっと触れたい)

そう本能が訴えるまま世良さんをこの場で押し倒してしまえば無理矢理にでも行為を成すことは出来るけれど、それじゃつまらない。
願わくば世良さん自らが堺さんでは無く俺を選ぶように。

(隣の芝を自ずと手に入れる方法を、俺は知っている)

堺さんを基準に笑って泣いて怒ってを繰り返す世良さんがいずれ近いうちにその感情の矛先を俺に向けるようになるその日まで、俺はまた柄にもなく隠れて努力しよう。

「黙っててやりますよ、世良さん」

「え?…ま、まじで!?」

良かった…!と心底安心したように笑っているけれど、それがロッカールームで致した事を認めているとはあえて言うことでもないけれどやっぱり腹ただしいから少しだけ味見。

「勿論ただじゃ無いッスよ?口止め料、期待してるんで」

「へ…?お、お前!赤崎ひでぇ!」

「とりあえず、今は、」

ちゅっ

すっかり元気を取り戻した世良さんがわーわーと騒ぎだす前に頂いてしまおうと、振り向き様に不意打ちでキス。
世良さんは何が起きたんだと目をパチクリさせ固まってしまったけれど、次第に顔が赤くなっていくのを見て再び俺は大きく溜め息をついた。

「あーあ、こんな馬鹿な世良さんなら丸め込んですぐに食えそうなんスけど」

「馬鹿って失礼だな!それに食うって何だよ!!」

「ま、俺は優しいんで待ちますけど、気は長く無いッスから」

世良さん自らが腕を伸ばしてくるその時まで。
堺さんには悪いけど、俺は欲しいものを手に入れるためには努力を惜しまない。



end

何が書きたかったんだかわからなくなった…orz
ザキさんは変態一途なかっこつけだといいな´`*


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