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罪深き人間





心と言葉って複雑なものだと思う。

どうして私達をつくり上げた神様は、心と言葉を同じものにしてくれなかったのだろう。どうして感情の近くにあるのは言葉なのか。どうして心はそんなにも深い奥底にまで沈んでしまっているのか。その答えを誰か知っているのであれば是非とも私に教えてほしい。言葉に隠れていつも黙ってばかりだった私の心を、救い出す方法を教えてほしい。

そんなことを求めるように、最近よく考えることが増えた。


仕事を終えて帰宅して、時刻は21時を過ぎていた。何を食べよう、と考える前に私の指先はカバンの中のスマートフォンを探していた。探り寄せて見つけたそれに軽く触れては、「21:08」という文字だけがロック画面に表示されていた。

あぁ、もう。いい加減通知オフにでもしておこうか。こうやって期待して気にかけている自分が馬鹿馬鹿しいし、情けない。今すぐにでもスマホを投げ出したい衝動に駆られるが、指先は彼との繋がりのあるSNSをタップしていた。

16:34を最後に私が送ったメッセージが表示されていて、それにはまだ既読の文字すらついていない。別に当たり前のことだし、第一私は彼の彼女でも奥さんでも何でもない。そんなことをいちいち気にして期待しても、何も無いことは自分が一番よく分かっていた。

分かって、いても。人間ってものは自分の欲には甘いんだ。欲深さに甘えるように、私は多分彼からの返事を待っている。それもただ待っているんじゃなくて、少し期待して待っている。

あぁ、くそ。情けない。こんな自分が情けなくてたまらない。昔なら一人でも生きていけるくらい強い女だったじゃないか。こんなことでいちいち足止めなんてしていなかったじゃないか。

そうこうしているうちにメッセージを受信した表記が画面に表示される。この時の感情は言葉で言い表せれないほど嬉しくて、無邪気な子供のようにはしゃいでしまう痛々しい自分が心の中にちゃんといる。今すぐにでも内容を確認したいはずなのに少し時間を置くあたりが、まだまだ素直じゃないところ。深く深く深呼吸をしてから、彼からの返事をタップする。
  

『寂しいか』


たったそれだけの言葉。私の気遣った文章とは対照的なそれは、凄まじい程の効力を持っていて私の心を大きく揺さぶった。

ここで、ここで彼の言葉に動揺してしまってはいけないんだ。それが駄目だって何度も分かっていたじゃないか。それなのに何故、私は再び、もう一度、彼を求めようとしてしまっているんだろう。SNSの落とし穴。直接言う訳じゃないから、簡単に気持ちが文字として表現できてしまう。実際になら絶対に口に出来ないその言葉を、また私は彼に告げてしまっていた。


『会いたいよ、爆豪くん』


その言葉の重荷と罪深さを知っていたからこそ、私は今にも泣き出しそうだった。

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