空の青さが眩しくて
引き裂かれるような感覚がした。
例えて言えば、小さな子供が画用紙をビリビリと破いて出来る亀裂が、彼と私の間に出来たような感覚だ。もう二度と会うことなど許されないと言わんばかりに、木っ端微塵にバラバラだ。
今までに感じたことのない絶望に、胸が張り裂けそうになる。深い深い暗闇へ、どんどん深く沈んでいく。姿、形さえも見えなくなってしまうほどの、深い闇へと落ちていく。
一度掴んだ光りさえ、照らし導くことは二度と無かった。
唇に触れたあの温もりが、懐かしくて、切なくて。初めて感じた自分とは違う他人の温もりが、こんなにも恋しくて愛しく感じるものとは知らなかった。
あの日の情景を思い出すだけで胸が苦しい。
キラキラと眩しかったオッドアイが、私の記憶へと語りかける。
優しかった。暖かかった。恋しくて、とても、愛おしかった。
初めて感じる人肌は、思った以上に私の心に安らぎを与えてくれた。触れ合うだけで、肌が火照り熱さを感じては、またその熱さがとても心地よく感じていた。
忘れられない。忘れることなんてできない。
彼と過ごしたあの日の思い出が、今もまだ私の脳裏へと刻まれ続けていた。
もし、私が。普通の家庭に産まれて、普通に育っていたとすれば、彼のような人物と恋を知り、愛を語り合うことが出来たのだろうか。
「お嬢様…」
「…じぃや」
窓ガラスに映る自分の姿の横に、じぃやのスーツの色が並ぶ。気づかぬまに側にいたことさえ知らず、私はどうやら呆然としていたようだ。
「…お元気を出してくださいませ。明日はお嬢様の挙式でございますよ。晴れの日にそのような表情をされてましたら、お母様もきっと悲しまれます」
「…ねぇ、じぃや」
「何でございましょう」
「…幸せってなんだと思う?」
「はぁ、」
「本当の幸せってなんだと思う?」
「幸せ、とは…私共が決めることではないと思います。お嬢様が幸せと思えることが、じぃにとっても何よりもの幸せでございます」
「そう……」
「…」
「…」
「…姫、様」
じぃやの泣きそうな表情をこれ以上見たくなかった。幼き頃から母を無くした私を側で懸命に支えてくれた恩人だ。
もうこれ以上、悲しませたくはなかった。
「…忘れなければならないのね。貴方のことは…」
窓の外に映る世界が何処か寂しげに見えた。
多分それはきっと、私の心が泣いているからだと思う。木々に青々しく光り輝いていた青葉が、色を重ねて枯れていた。風になびくように地面へ落ちていくその姿は、まるで私のようだった。もう、あの日のような輝きは、もう二度戻らない。
寂しくて、そして、悲しくて。
髪に、耳に、首に、手首に。いくら光り物を身につけたとしても、あの日の輝きは何処にもない。何処を探しても見つからなくて、もう駄目だってことさえ分かっている。
頭で分かっているはずなのに、心がごねて叫んでいる。
幸せになりたい。
愛する人と共に過ごしたい。
裕福じゃなくても構わない。
貴方と、貴方とじゃなきゃ駄目なのに。
あぁ。
空はこんなにも綺麗なのに、人はどうして悲しいんだろう。自分の心を閉じ込めて、感情というものを消し去った。