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肌を突き刺す冷たさの中で


空に月が顔を出して、ネオンの色彩が鮮やかに見えるこの時に私の一日はスタートする。
午後八時出勤だったが昨日の二日酔いがまだ抜けていないため、起きることがとても大変だった。薬を飲んで少しは楽になったものの、今日一日を乗り越えることができるだろうか。そんな不安が自身に募る。
今日は他国のギャング達が大勢店に遊びに来る日だ。是非ともゲットしておきたいところだが、この頭痛では持ち前の可愛さも十分に発揮できないであろう。早く薬よ効いてくれ。そう願を込めながら、店へ向かう足を速めた。


「金出せっつってんだろがよォ!!このタコがァ!!」
「兄貴、こいつもう反応してませんぜ」
「よし、今のうちに巻き上げろ」
「へぃ!」


何処にでもいるようなチンピラ達の声が耳につく。華やかなネオン街も一つ道を外れるとあんなごろつきが群れをなして歩いている。絡まれたくもないし、関わりたくもない。面倒なのは嫌いなのだ。ちらりと裏路地へ目を向ければ、会話をしていた奴等の足元に人が数人転がっていた。生きているのか死んでいるのかさえ分からないが、あちらの世界の人間だろう。声を掛けられる前に立ち去ろうと足を速めるが、汚い目には私達のような華やかなものは直ぐ様目につくようだ。


「おいおいおいおい〜そこのべっぴんさんよォ〜〜。ちょいと俺らと遊んでいかねぇーか?」
「兄貴、きっと飲み屋の女ですぜ。この着飾るような美しさは娼婦じゃあねぇ」
「んなもん見たら分かるだろ〜が。姉ちゃんエロい格好してんなァ〜。出勤前に相手してくれよ〜お高くしとくからよォ〜」
「…生憎、そういう仕事はしてませんから」
「固いこと言わずによォ〜〜。俺らも相当たまってんだわ、だから頼む。そこの路地裏でいいからよォ…一発させてくれよォ〜」


最悪だ。酔っているのかと疑ってしまうほどに、口の汚い連中だ。急いでいるというのにこういう日に限って、こんな奴等に絡まれてしまう。しかも二人して私が逃げないようにとブロックし、逃げ場を無くされた。どうやって逃げ出そうか。頭を必死で悩ませると同時に体感温度が少し下がる感覚がした。もうすぐ夏だというにも関わらず、どうしてこんなにも涼しいんだろう。一瞬にして体感温度が急降下したかと思えば、目の前にいた男達が一瞬にして凍りついていた。とても冷たい氷に全身跡形もなく氷付けにされている。何が起きたのかと目を疑うことほんの数秒間で、露出した肌から徐々に体温を奪われる。私まで凍死してしまうんじゃあないかって思う程に、身体が寒さに震えていた。


「…チッ。面倒だなァ…」


凍える寒さの中で微かに聞こえる低い声。少しかすれたその声は、私の鼓動を刺激した。感じたことのない鼓動の動きに少しばかり動揺してしまう。


「…おい、そこのお前。何も見てねぇってことで今すぐこの場から消えろ」
「え…あ、はい」
「…夜は昼よりも冷えるからよォ…あんま薄着してんじゃあねぇーぜ。変な虫も湧いて出るからな」


メガネの奥の彼の瞳は、今までに一度も見たことがない程にとても綺麗だった。とても、綺麗。そんなことをふと思い、胸が熱く苦しんだ。肌に感じていた冷たさもいつしか温もりへと溶けていく。それと同時に瞳に映る目映い光は、溶けてなくなる氷のように跡形もなく消え去っていた。先程まで目の前で凍っていた人達でさえ、何事もなかったかのように消え去っていた。

夢なのか現実なのかよく分からない感覚に陥って、思わず頬を軽くつねる。痛みを感じるが、本当に現実に起きたことなんだろうか。

理解できない現実を否定しながらも、肌にほんのりと残る氷の冷たさに、少しだけ鼓動が高鳴った。