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本当の愛を探し求めた




本当の愛ってなんだろう。

一人で過ごす時間が増えて、そんなことを考えることが増えた。


先日、焦凍から俺といて幸せか、と質問された。とっさに口にした言葉は自分の気持ちとは裏腹に、綺麗な言葉ばかりだった。


『愛してるわ、貴方をずっと。これから先何があっても、私はずっと…』


テレビからそんな言葉が聞こえてくる。
何があっても、か。そんなことをこの人は本当に思っているんだろうか。皮肉に考えてしまう私は随分落ちぶれたものだ。

勿論、私は焦凍を愛していない訳じゃない。今でも彼を愛していて、彼を愛しい人だと思っている。だけど愛だけじゃ上手くいかない現実を知って、いつしか好きだという気持ちが私の心から薄れていった。

人を愛することと、人を好きだと思うことは少し違うのだ。
恋する心と愛する心は似ているような響きだが、中身はまるで違ったものだ。鈴蘭のような純白な花と薔薇のような深い愛を持つ花と、同じ花でも意味するものが違うように、相手を思う気持ちも恋と愛では全く違っていた。

愛しているからこそ、これからのことを考える。
自分の身分を考えて、彼の地位を考えて、彼の重荷にだけはなりたくないからと、必死に自分を曲げてきた。それは彼のことが好きだからとかそういう気持ちではなくて、好き以上に深い愛で彼をいつも思っていた。

彼はプロヒーローで、私は一般人。天と地の差ほどある私達の立ち位置は、酷く私を苦しめた。正直、私なんかが焦凍の側にいて良いものかと悩んだことも多々あった。特別可愛いわけじゃないし、大した個性も持ち合わせてはいない。はたまた焦凍みたいな光り輝く職種でもないし、どこにでもいるただのOLだ。

だからこそ、比べてしまう。
テレビに映る華やかな女性達と自分のことを。焦凍は向こうの世界の人間だ。こんな一般庶民の私なんかより、向こうの世界の女性達の方が彼にはお似合いなんじゃないだろうか。光り輝く彼だからこそ、隣には同等の光りをもつ人間の方が彼の負担が少なくなるんじゃないだろうか。

そんなことを考えては、会えない時間が重なって、私の心は崩れ落ちていった。


愛することの本当の意味を、私がもっと理解していれば、こんなことにはならなかったはず。




『今日もお仕事お疲れ様。地方だから大変だよね。無理しないで頑張ってね。私はいつも焦凍のこと応援してるから。

突然で申し訳ないんだけど、伝えておきたいことがあって。忙しい時に場違いな私でごめんなさい。…だけど、私ね、もう、』


途中まで打ちかけた文章を見つめては、熱い何かが込み上げて、視界が徐々にボヤけ出す。

あぁ、決めたじゃないか。ちゃんと気持ちを伝えるって。そう決意したはずなのにまだ、私の心は何かを叫ぶ。走馬灯のように蘇る記憶達が私に優しく語りかける。あぁ、違うんだ。そんなことを言ってほしいわけじゃない。私はもう決めたんだ。だからもう、そんなことを言わないで。

愛してるとか、そんなこと、私に優しく言わないで。



『──私ね、もう、焦凍のこと、愛してないの』



私は、本当は、愛することの本当の意味を知っていたのかもしれない。だからこそ、愛するが故に、彼をこれ以上苦しめたくなかったんだ。私のためにこれ以上、悲しむ焦凍を見たくなかった。

そう、見たくなかったんだ。

溢れる涙に身体が震えた。小刻みに震える指先を、なんとか奮い立たせて送信ボタンをタップする。そのままスマホの電源を切って、テレビから漏れる愛の言葉に耳を傾けて、身体をベッドに投げ込んだ。

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