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恋音が弾ける瞬間
履き慣れない靴を履いて待ち人の元まで滑り寄る。私を眼鏡のレンズに映せば、やっときたか、そんな言葉を吐き捨てた。


「ギ、ギ、ギアッチョ…」
「なんだよ」
「ここ、寒すぎない?大丈夫?温度設定」
「そうか?全然寒くねーぞ」
「あぁ、そうか。ギアッチョはホワイトアルバムだもんね。寒いわけないか…くぅ。こんな時こそ同士のメローネがいてくれたら共感してくれるだろうに」
「ぁあ〜?メローネだァ?俺と居んのに他の男のことなんざ考えてんじゃあねーぞ」
「うぅ、すみません」
「…チッ、おら行くぞ」
「あ、ちょ、えええ!?もう滑るの〜〜!!?」


焦る私をお構い無しに、広々としたスケートリンクを可憐に滑るギアッチョ。引かれる片手に力を加えて、おぼつかない私自身のバランスをなんとか保つ。息が荒くなる私を見つめては、彼の口から大きめのため息がこぼれ落ちる。


「オメ〜よォ…俺と一緒に仕事行きてぇっつーから、わざわざ練習しに来たって言うのによォ〜〜。なんだその間抜けな姿はよォ〜、見てるこっちが恥ずかしいぜ」
「間抜けは余計っ、こう見えて初めてなんだから。ちゃんとリードしてよ」
「だいたいよォ〜、こんなところ来なくたって、俺のホワイト・アルバムがあればどこでも練習できんだろォが」
「それじゃあ意味がないのよ。ちゃんとリンクで練習しないと意味がないの」
「どォいう意味だァ?それはよォ〜。ちゃんと説明してくんねぇと納得いかねぇぞ」
「駄目。説明しても絶対納得してくれないから」
「…ケッ。結局何かァ?俺はただの練習道具ってわけか?」
「そうは言ってないでしょ。ただ単に、私はギアッチョに教えてもらいたいの」
「…よく分かんねぇ女だぜ。人一倍世話がかかる野郎だなァ…」


ギアッチョの口からは文句が止まらないようだ。そんな彼の言葉に少し胸が痛むものの、口にする言葉とは裏腹にリードしてくれている彼の姿は、いつにも増して優しく思えた。


「身体に力入れすぎなんだよ。もっとリラックスして全身の力抜かねぇと、上手く体重乗せて滑れねぇぞ」
「う、うん。やってみる……こ、こんな感じかな?」
「…ま、ドジな割には上手くできてるじゃあねぇか」
「やった!誉められた!」
「んなことで喜んでんじゃあねぇぜ。もっとスピードあげんぞ。ついてこい」
「スピードあげたら少し怖い!!」
「つべこべ言うんじゃあねーぜ。大人しく俺に従っとけ」


徐々にスピードが上がるものの、それも私のことを気にかけながら滑ってくれている。そんな彼の優しさに胸がグッと熱くなる。好きになるとかそういうのじゃあないけど、男としてとても頼りになる人物だ。彼と仕事がしたいと思うようになったのは、そんな男らしい一面を知ってからだったような気がする。


「ぼーっとしてっと危ねーぜ」
「ご、ごめん」


バランスを崩しそうになった私の身体を、ギアッチョが手を引き優しく支えてくれた。普段キレやすい彼からは想像できないほど、とても穏やかで優しい表情をしていた。

こんな表情、するんだ。

見慣れない、そんなギアッチョの表情を見つめては、心の音が徐々に徐々に大きくなる。なんなんだ、この心のざわめきは。今まで感じたことのない感情を、ギアッチョ相手に抱いてしまう。

あぁ、こんなの自分じゃない。

頬に集まる熱を逃がすように、冷えたスケートリンクへ目を反らす。
手のひらから伝わる温もりを少し歯痒く感じては、求めるように力を加え、強く握り返した。



アルカリ様request