×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




赤く実る心臓



「切島くん、」

「なんだ?」

「なんでもない」

「…」

女子ってのはよくわからない。こんな疑問を抱くようになったのも、名字が初めてだった。
何を考えているのか分からないその瞳には、いつも俺が映っていた。
嫌でも気づく彼女からの視線に、質問を投げ掛ければ、いつも決まって適当な返事が返ってくる。
最近そんな事が増えた。
俺が雄英受かってからだ。そんな事が多々あった。

寒い冬が過ぎ去って、もうすぐ春を迎えようとしていた。それと同時に、門出を祝う卒業式が俺らを待ち受けていた。クラス中が卒業ムードに浸る中、名字だけ、違っていた。
彼女の瞳はどこか寂しげで、悲しい瞳でいつも俺を映していた。そして、何故だか分からないが、名字が俺を瞳に映す度に、俺の心がちくりと痛んだ。

病気かと疑ってみるものの、その症状が起きるのは、決まって名字の時だけだった。

それからだ。それから何故か、名字を良く見るようになった。眠そうに欠伸する姿や、授業中に居眠りする姿。友人と楽しそうに話す姿や、嬉しそうに笑う姿。
その全てから目が離せなくて、本当に病気じゃないのかと疑ってしまう。
名字の瞳に俺が映り込む時。俺の心は強く弾んだ。胸が熱く苦しく感じた。名字が俺の名前を呼べば、更に鼓動が加速した。訳わかんねぇ状態だが、不快だとは思わなかった。寧ろ、もっと、もっとと欲が出る。そんな感情がいつしか俺に芽生えていた。

そして迎えた卒業式。晴れて俺は来月から、憧れていた雄英に通う事ができる。そんな期待に胸が踊る一方で、名字の眼差しが頭から離れなかった。寂しげに俺を見つめては、何かを言いたそうに口ごもる。そんな名字が気になって、彼女の姿を目で追った。

友人達が涙で別れを惜しむ中で、俺は名字の元へと駆け寄った。彼女の肩に手を掛ければ、少し驚いたような表情をしていた。

「切島くん…」

「名字、あのさ」

「いいよ。切島くん。今までごめんね。そしてありがとう。切島くんなら最高のヒーローになれると思うから、高校に行っても頑張ってね」

「えっ、あ、ちょ!待てよ!」

俺が名字の名前を叫んでも、以前のように振り向く事はもうなかった。みるみる小さくなっていくその背中を、ただ呆然と見つめていた。


卒業してから、俺の心には小さな穴が空いていた。名字に会えない日々が続いて、もう会うことがないと思えば思うほど、胸が張り裂けそうで怖くなる。
懐かしい声を思い出せば、名字の姿が瞼の裏に浮かぶ。虚しい心の嘆き声は、この時だけは穏やかになる。

あぁ、そうか。俺は。
名字の事が好きだったのか。

気づいてやるのが、少し遅かった。俺も名字も、もう少し踏み出せていたら、違った未来があったのかもしれない。
気づいた時にはもう手遅れで、赤く実った俺の心臓は、熟しきって腐っていた。
終わりを迎える熟した果実を、胸の奥へとねじ伏せた。



─あとがき────────

初恋ネタだったので、初々しい感じの甘酸っぱいお話を書こうと思っていたのに…気がつけば切ないお話になっていましたっ!すみません。
切島くんなら、こうだろうな…中学生だったら、尚更こうだろうな…そんな風に考えながら楽しく執筆させていただきました。ちなみにヒロインちゃんが好きだと言えなかった理由は…ヒーローになるためにと必死に頑張っている姿を知っていたので、中々好きだと言い出せずにいたものです。二作品リクエストありがとうございました!