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失った愛情



愛してる。
そんな言葉や感情は、果たして本当に存在するんだろうか。

彼の濁った瞳を、いつまで見続けなければならないんだろう。いや、瞳が濁っているのは彼じゃない。彼の瞳に映る私自身だ。彼の瞳が澄んでいて、眩しすぎて苦しくて、私は直視できないんだ。

多分、世間一般の恋人達は肌を重ねる度に快楽と幸せを得ているんだろう。好きだ、愛してると囁いて、互いの気持ちを確かめ求め合っているはずだ。羨ましい?そうだ、私は多分、そんな恋人達が羨ましいんだと思う。
素直に、好きだ、愛してると伝える事のできる彼等が、羨ましくて眩しく思えた。

「っ…」

私達はいつからこんな風になってしまったんだろう。言葉を交わす事のないまま行われる行為には、果たして意味があるんだろうか。彼は自分の性欲のため行っているんだろう。彼はそうかもしれないが、私はそうじゃなかった。何度抱かれても、肌を重ねても、一度も満たされた事なんてなかった。幸せだなんて、思った事なんて一度もなかった。ただ、されるがままに、彼をずっと受け入れていた。
いつか、きっと。そんな希望を捨てられなくて、無我夢中に彼に酔った。

「…爆豪くん、」

「あ?」

薄暗い室内で、近くにあった彼の背を目でなぞる。抱き合った跡の残る背中を見つめては、心が嘆いて涙を流した。私のつけた跡さえも、時間が経てば消えていく。まるで私達の関係のような、そんな儚さが残っていた。

「…なんでもない」

「…」

言いかけた言葉を飲み込んだ。私だって本当は、爆豪くんが好きなんだ。一度くらい自分の言葉で愛していると言ってみたい。言いたい、伝えたい、自分の心を。だけどそれを告げてしまえば、私達の関係に終止符が打たれてしまう。だから私は、いや彼も、言葉を口にすることができないままなんだ。

悲しい響きが心に伝わる。こんな関係苦しいだけだ。終わらした方が良いことだって分かってる。こんな事続けても、何も意味がないことだって分かってる。

だけど、私は求めてしまう。弱い私は求めてしまう。ヒーローのような眩しい光に焦がれて、自分の弱さを消し去るために、彼の光を求めていた。心の温もりを、優しさを、私は肌で感じたかった。
手に入ったはずなのに、だけど、何故か。それはいくら求めても、自分の心を満たすことは一度もなかった。求めて、重なって、温もりを感じているはずなのに、いつも心は空っぽだった。そう、求めれば求めるほど、彼との愛を見失った。

人間って奴は貪欲な生き物だ。少なくとも私はそんな人間だ。愛を求めて、愛を失い、愛を探していた。彼を利用しているのかもしれない。もしかしたら私が利用されてるのかもしれない。だけどそれでも良かった。いや、本当は良くないのだが、自身の考えをねじ曲げることは私にはできなかった。

「…ねぇ、もしさ」

「あ?」

「出会う前の私達に戻れるとしたら、もっと未来は輝いてたかな」

「…仮定は好きじゃねぇ」

「まぁ、そうだよね」

いつものように、私を残して立ち去る彼の背中を見送った。姿が見えなくなる前に、ほんの一瞬だけ、彼のルビーと交差した。いつにも増して澄んだ彼の瞳を、また一段と愛しおしく感じてしまう。

あぁ。こんなにも愛しているのに。

涙はどうして流れるんだろう。




─あとがき───────────

身体だけの関係な二人の切ないお話…大好物なリクエストにも関わらず、爆豪くんで描く事が少しばかり難しかったです。大人な爆豪くんが表現できていたかな…。内容が大人向けだったため、年齢指定をさせていただきました。すみません。