ベゴニアの葛藤
「ナツさんも懲りませんね。あんな女の何処が良いんですか?」
「俺のだかんな!取るなよスティング」
名前。
俺が今想いを寄せてる人物の名だ。同じギルドなら、こんなにも面倒な事はねぇんだが、あいつが所属してんのは剣咬の虎だ。会うためにわざわざ剣咬の虎まで来ねぇといけねぇし、来てみても今日みたいに不在な事が多い。
避けられてんのか、なんなのかよくわかんねぇけど、俺はあいつに会いたいから来ている。それ以外に理由はなかった。
「どこで仕事してんだよ」
「ナツさんに教えるなって言われてるんですけど…」
「んなもん関係あるかよ。教えてくれよ、スティング」
「…困ったな。ナツさんの頼みとなると、断れねぇぜ」
スティングからあいつの居場所を教えてもらい、早速その場所を目指してギルドを出た。
あいつがいる場所は、剣咬の虎からあまり離れてねぇ場所だ。今日はハッピーを置いてきちまってるから、どうしても自分の足で出向くしかねぇ。乗り物に乗るのは絶対嫌だったため、足を速めて彼女の元へと走っていった。
「…またスティングの奴、話したな…」
「話したじゃねぇよ。俺に黙って仕事に行くなよな」
スティングから教えてもらった場所へたどり着けば、案の定仕事を終えたばかりのあいつと出くわした。俺の顔を見るや否や嫌そうな顔をしやがる。全く、素直すぎるにも程がある奴だ。
「仕事終わりましたよ?今から帰るんですけど」
「奇遇だな。俺も今から帰る所だ」
「…?何しに来たんですか」
「お前を探しに来たんだよ」
「…やっぱり」
「やっぱりってなぁ。つか、一人で仕事行ってんじゃねぇよ。怪我したら危ねぇだろ?」
「危なくないですよ。剣咬の虎のメンバーなんですから。ある程度は力もあります」
「んなもん関係ねぇよ。剣咬の虎のメンバーである以前に、お前は女だ。分かってんのか?」
「分かってるも何も…女だってなめられた事はまだありませんし、」
「何が起きるかわかんねぇだろ。一人で仕事行くの禁止!」
「なっ…って、どうしてそんな事までナツさんに決められないと駄目なんですか?しかも別のギルドの人なのに」
そんな質問を投げ掛けられて、どう返答していいものか困ってしまう。ここで好きだと伝えれば、名前はきっと困るはずだ。
そう分かっているからこそ、ちゃんとした返答が出来ねぇままでいた。
「うっせぇよ。別にギルド違ってても、構わねぇだろ」
「えー、そこが一番重要だと思うんですけど」
「つか、お前が妖精の尻尾に入ればいい話だろ!」
「え?私が妖精の尻尾に?」
「あぁ。そんじゃぁ俺も、こうやって心配して駆けつけなくてもよくなるしな」
「いや、駆けつけなくていいんですけど…」
「つべこべ言うんじゃねぇ。妖精の尻尾に入れよ、名前」
「なんでそんなに私を妖精の尻尾へ入れたがるんですか?」
「ぁあ?んなもん決まってんだろ」
「?」
「お前の側に居たいからだ」
「えっ…」
頬を赤く染めて、目を見開く名前。自分の発した言葉の意味を理解した俺は、名前の後を追うように、頬を赤く染め上げた。
「え、ま、ちょっと待って!?どういう意味ですかそれ!?」
「な、なんでもねぇ!今の取り消しだ!幻聴だ!幻聴!」
「もしかしてナツさん、私の事好」
「腹でも減ったな!早くなんか食いに行こうぜ!ほら、早く!」
「え、ナツさんって私の事好」
「す、すき焼き食いてぇのか!?よ、よし。分かった。ルーシィに作ってもらおうぜ!」
「…分かりやすすぎて、逆に怖い」
「何言ってんのか、さっぱりわかんねぇなぁ〜。とにかく、マグノリアに帰るぞ!」
「いや、私のギルド、マグノリアじゃないんですけど…」
「ルーシィの家はマグノリアだ!」
「いや、すきやき食べたいんじゃなくて、ナツさんって私の事好」
「誰か助けてくれ!この現状からぁぁ!」
俺の叫びは誰かに届く訳でもなく、その後も名前からのいじりは止めどなく続き、更に俺を苦しめた。だかど、いつかちゃんと想いが届くその日まで、こうやって共に過ごす事も悪くねぇと、心なしか思えた。無邪気に笑う名前の笑顔が、俺の気持ちを更に募らせていく。好きだと心で呟けば、名前の瞳が弧を描いていた。
─あとがき─────────
やばいです。想像していたよりも、ナツが想いを寄せるシリーズ難しかったです。笑
夢主にちゃんと振り回されてたかなと、少し心配になりましたが…大丈夫だったかな。最近オラオラナツさんを書きすぎて、口調が強めな所が抜けてないですね。とほほ。