ある日の昼下がり。だいぶこちらの世界での暮らしも慣れ始めた頃。相変わらずアースランドへと帰る手掛かりは見つからないままでいた。
生乾きの洗濯物を見つめては、自分の魔法で乾かすかと思い、魔法を使用しようと思ったが、全く魔法が使えなかった。
慌ててルーシィの所まで走って行き、事情を伝えれば、この世界の魔法の存在がどういうものなのかを教えてくれた。
「なんだ?ファーストネームの世界の魔法は有限じゃねぇのか?」
「有限というか…魔法は体内に宿ってるから死なない限りは無限かな?」
「自分の体の中に魔法があるのか!?」
「うん。ちなみに私は風魔法。ルーシィは星霊魔法で、ナツは滅竜魔導士だよ」
「ぼ、僕が滅竜…滅竜ってドラゴンを倒すとかですか!?」
「ナツがドラゴンを倒す!?ぎゃはははは!!腹痛てぇ!あり得ねーっつーの!」
「酷いですよ〜ルーシィさぁん〜」
「こっちのナツはね、小さい頃はドラゴンに育てられたみたいなの。ドラゴン大好き少年だよね」
「ドラゴンに育てられただぁ!?頭イカれてんじゃねぇの!?ぎゃはははは!!」
「ちなみにグレイは氷の造形魔法を使うよ」
「何だって!?氷!?さ、寒すぎるよ〜」
「ジュビア、そっちのグレイの方がいい。暑苦しくないから」
「そりゃないよジュビアちゃん〜!悲しくて涙が止まらない」
「だ、大丈夫ですかっ」
メソメソと泣いているグレイを励ましているナツ。エドラスでのナツとグレイはとても仲が良いようだ。真逆すぎて少しおかしく思えてしまう。
爆笑しているルーシィを見つめては、声がでかい所は変わってないなと改めて思った。
この時の私は、影から私達の事を見つめていたリサーナの存在に気がついていなかった。まさか、彼女も私と同じようにアースランドから迷いこんでしまったとは想像さえもしなかったからだ。だけどその真実を知る事は最後の最後までなかった。彼女の優しさなのか、ミラ達への気づかいなのか、彼女の気持ちは分からないが、あの時リサーナを助ける事ができたなら、少しは彼女をこの世界との狭間から、救い出せていたのかと思ってしまう。そんな事を考えるのは、まだまだ先の話である。
夜になった。昼間にルーシィ達と今の状況を整理して、こちらの世界の事を詳しく聞けたお陰か、少しだけ心が落ちついた。
魔法は有限であるエドラスでは、私は一切魔法が使えなくなっていた。アースランドへの戻る方法を探すためにも、後日街へと出かける事をルーシィが提案してくれた。魔法を使うための道具も共に購入しに行ってくれるようだ。何から何まで仕切ってくれるルーシィは、本当に頼もしく思えてしまう。
少しでも早く帰れる方法が見つかるといいと思うものの、少しだけ心残りに思う事があった。
「あ、ファーストネームさん!お風呂、気持ちよかったですか?」
「ナツ…」
一応こちらの世界の私達は付き合っていたようなので、ナツの部屋で寝泊まりさせてもらっている。お風呂から出てきてソファで身体を休ませていたら、ナツが部屋へと現れた。いつもよりラフな格好をしている彼は、私と同じくお風呂上がりなのだろう。
前髪が下りていつものナツと雰囲気の違った彼は、よりいっそう私の知るナツへと近づいていた。
「凄く、ナツみたい」
「え?」
「あぁ、ごめんごめん。私の知ってるナツと似てるなって思ってさ」
「あ、本当ですか?」
「うん。確かナツもそんな感じのスウェットを着ていつも寝てたと思うな」
「そうなんですか…」
「あ、違うよ!ナツの家に泊まった訳じゃなくて、皆でお泊まり会した時に、その時に見たの」
「わかってますよ。そんなに焦らなくても」
「あ、焦ってないし…!」
「ふふ、そんな所はそっくりですね。ファーストネームさんに」
「…そうなんだ」
「そういえば、アースランドの僕の事をもう少しお話聞きたいです。聞いてもいいですか?」
そんな質問をしながら、私の隣へと何気なく腰かけるナツ。彼は意識していないだろうが、こんなにもナツと至近距離でいた事がなかったため、鼓動が徐々に荒くなる。頬に熱を感じながらも、必死で平然を装おうとしていた。ナツの事を意識しているだなんて、気づかれたくもなかったし、気づきたくもなかったからだ。
「私達の世界のナツは…前にも言ったけどとにかくヤンチャで、喧嘩が好きで、しょっちゅう街壊すし、人の話最後まで聞かないし、頑固で石頭で食べる事が大好きで…後ね!この間、仕事から疲れて家に帰ってきたら、自分の家のように私の家で寛いでたの!!私の家なのに!どうやって入ったのか知らないんだけど、いつも私の家で勝手に寛いで、散らかして、ベッド独占して…本当に手のつけどころがないよ…」
「なんだか、本当に僕と真逆な性格ですね。おかしいな」
「本当だよー…良いところなんてあまりないけど、強いて言えば…仲間思いで、家族(仲間)のためなら自分を犠牲にしてでも、何かをやり遂げてる姿は、尊敬したりしてるよ」
「仲間思いなんですか」
「うん。良いところあんましないけど、根性は腐ってなくてちゃんとしてるよ」
「なんだか、アースランドの僕とファーストネームさんは、恋人同士じゃないけれど、結構親密な仲なんですね。なんだか嬉しいな」
「なんだか嬉しいな!?嬉しくないよ!しかも親密な仲じゃないから!断じて違うから!そ、そんなんじゃ…」
先ほどよりも更に身体が火照っているためか、少し気持ち悪く感じてしまう。何故私がナツなんかのために、ここまで心を乱さなければならないんだ。こんなのまるで、私がナツの事を意識して、焦っているみたいじゃないか。
私の目の前で嬉しそうに笑うナツを見れば、少しだけ心が穏やかになった。
彼ならば、、そんな事を考えてしまう。
同じナツでも、彼ならば、恋をしてもいいんじゃないか。そんな自分の囁きを聞こえないふりをし続けた。