「お待たせしました!ファーストネームさん!」
「ナツ!って凄くかっこいい魔導四輪だね!」
「だいたいいつもこれに乗って仕事する事が多いんです」
「ナツが…魔導四輪に…考えられない…」
「おいお前ら!あんまり遠くへ行くんじゃねぇぞ!王国軍に見つかっちまったら面倒だからな!」
「ル、ルーシィさんっ!分かってます、早めに帰ってきますから…」
「ルーシィ行ってくるね!」
「おう!気をつけてな」
外まで見送りに来てくれていたルーシィに、声をかけてからナツの愛用車へと乗り込んだ。
座り心地も最高で、アースランドのものよりも優れているように思えた。
「どこ行きたいんだ?」
「…ん?」
気のせいだろうか。私の知ってるナツのような声が聞こえた気がする。いや、そんなはずはない。この車の中には私と、こちらの世界のナツしかいないのだ。
「行きてぇ場所はねぇのか?ファーストネーム」
「え、あ…あの、どちら様で…」
「何とぼけてんだよ。相変わらず面白れぇ奴だな。っよし、行き先は俺のおまかせな。…ッファイヤーーー!!」
ファイヤー!!!っておいいい!?
な、べ、別人!?別人と思えるほどに性格が真逆になっている目の前の人物を見つめて、思わず目を疑ってしまう。先程までの弱々しいナツとは違って、男らしい話し方をするこの人物は、私の知っているナツにそっくりだった。
「え、ナツって車に乗ると性格変わるの?」
「あ?あぁ、そういや言ってなかったな。普段の俺はこっちだぜ」
「いや…普段のナツはあっちだと…」
「つか、懐かしいな。こうやってよく二人でドライブしたもんだ」
遠くを見つめながら、ナツが寂しげに呟いた。弱々しいいつものナツなら言わない台詞を、こうも易々と言われてしまえば、意識せずとも意識してしまう。
「ファーストネーム、いつもみたいに手ぇ握るか?」
「いつもしてませんけども!?」
「あ、そうだったな。お前はファーストネームでもアースランドのファーストネームだったな」
「…車に乗ったナツは、私の知ってるナツにそっくりだよ」
「そうか?面白れぇな。向こうの俺はこんな感じなのか」
「…しいていえば、私の知るナツの方が馬鹿で男臭くて意地悪かな」
「なんだよそれ、いいとこねぇじゃん俺」
「それに比べてエドラスのナツは、車に乗るとクールで男らしくてかっこいい、かも…」
「ん?惚れ込む所は同じってか?可愛い奴だな」
そう言って私の頭を撫でるナツ。考えられない行動に、目玉が飛び出しそうになる私。
「や、ま、待って!イチャつくのは、ちょっと…」
「ん?あぁ、恥ずかしいんだな。ったく、昔からお前は恥ずかしがり屋だったな」
「何その情報!?恥ずかしすぎる!」
「さ、もうすぐ着くぞ」
「どこに着いたの?」
私がナツに問いかければ、ニッと口元をつり上げて、嬉しそうに笑っていた。
「お前と俺が付き合うきっかけとなった場所だ」
そんなナツの言葉と共に、目に映る広大な景色を見れば、自ずと言葉を失った。辺り一面に咲き誇る花達が、キラキラと光って眩いばかりだ。
こんな素敵な場所で、エドラスの私はナツと恋人同士になり付き合う事ができたのかと思えば、羨ましいと思ってしまう。
隣に座るナツを伺えば、私と同じように眩い景色を見つめていたが、心なしか少し泣きそうな顔をしていた。どうする事のできない私は、そんな彼の姿をただただ見つめる事しかできなかった。