「…ここは」
頭がガンガンと痛む。ポツポツと頬に当たる水滴は、酷く冷たく感じた。
身体を起こせば、辺り一面の墓地が目についた。空から降り注ぐ雨の滴の音が、リズムよく私の耳へと響き渡る。
一体此処は何処なんだ。
そんな事を考えながら、目の前にあったお墓へと目を向けると、信じがたい事実に思わず目を疑ってしまった。
『ファーストネーム・ファミリーネーム』
バクバクと心臓がうるさい。目をこすってもう一度見つめてみるが、墓地に記載されていた名前は確かに自分のものだった。
何が、どうなってるの。
自分でも何がなんだか分からなくなっていた。時空の歪みに吸い込まれたかと思えば、気づいた場所は自分の名前が書かれた墓地の前。全く理解出来ない現実に、酷く頭を悩ませた。
その時だった。
「…ファーストネーム、さん?」
「え」
聞き覚えのある声に身体が飛び跳ねた。だがそれと同時に、呼ばれ慣れてない名前に嫌悪感を抱いてしまう。
声のした方へと振り返ると、思った通りの人物がいた。
「もう、ナツったら。私に何をしたのよ、いい加減に」
「ファーストネームさん!!!」
いつものように文句をたれてやろうと思ったが、そんな私の言葉をかき消すようにナツが勢いよく私を抱き締めてきた。
始めて感じるナツの温もりに、更に心臓がバクバクとうるさく感じてしまう。
「ちょ、な、何してるのよ…」
「ファーストネームさん!良かった!本物だ!生きてたんだね!本物に、良かったっ…」
「え?生きてたって私、死んでないよ?…ってなんで泣いてるの!?」
私にしがみつき涙を流すナツの姿を見て、妙な違和感を感じた。見た目も声もナツそのものだけど、何かが違うような気がした。第一話し方がおかしいし、ナツはこんなに弱々しくない。
それにこの服装だって…いつもの服と違い過ぎている。
ナツなのに、ナツじゃない気がしてたまらなかった。
「良かったっ…本物に、良かったっ…」
「…」
だけど、どうしてか。こんなにも泣きじゃくるナツを見つめては、心なしか可哀想に思えてしまい、無意識のうちに彼の背中を撫でていた。
ナツが私に抱きつく際に手離した花束が、雨に濡れて悲しげに乱れていた。地面に散らばる花達を見れば、私の大好きなガーベラばかりだと気がついた。ナツは私の好みの花までも知っていたのかと、少し嬉しく思いながらも、少しだけ悲しくも思えた。
ナツが持ってきていた花や、私の好物の果物達を見れば、私は本当に死んでいたのかと思ってしまう。
そんな現実に少し心が痛む中、この状況をどうすればいいかと頭を悩ませていたら、もう一人の聞き覚えのある声が私の耳へと響いた。
「何してんだよナツっ…って、ファーストネーム?お前、ファーストネームじゃねぇか!」
「えっ…ぇえ!?ルーシィ!?どうしたの!?その格好!?」
次に登場してきたルーシィを見て、思わず吹き出しそうになった。パンク系というか…ルーシィとは思えないような服装に、どうなっているんだと更に混乱し始める。
「おいコラナツ!いつまでもメソメソ泣いてんじゃねぇぞ!」
「ご、ごめんなさいっルーシィさん…」
「…ルーシィ、さん?」
「とにかく、死んだはずのお前がいる事はおかしい。詳しく事情を聞かせてもらわねぇとな!」
「ルーシィさん、もしかしてファーストネームさんの事疑ってるの!?」
「疑うも何も、死んだ人間が生き返るなんざあり得ねぇ話だっつーの!とにかく一旦ギルドへ戻るぞ。ファーストネームも一緒についてこい!」
「この人はファーストネームさんだよ!間違いない!香りも温もりも全部、ファーストネームさんそのものだ!」
「分かってるっつーの!とりあえず、話を聞かねぇとわかんねぇ事だってあるだろが!ちんたらしてねぇで、お前もしゃんしゃん歩きやがれ!」
「は、はい!」
会話する二人を見て、思わず目が点になった。
ナツが、尻にしかれてる…。ルーシィのキャラは一体どうなっているんだ…。
更に混乱する中、頭を抱えながらも二人の後をついていった。