20.二人の本音
クラムチャウダーを食べ終えて、眠りにつこうとした夜。私が布団へ入り、しばらくしてからナツが戻ってきた。先程まで私達の部屋へと来ていたナツを押し返して、一人になったタイミングで、グレイと共にお酒を飲んできたナツが部屋に戻ってきた。

戻ってきたナツに声をかけることができなくて、私は必死に寝たふりをした。ナツも私に何か言葉をかける訳でもなく、いつものように私の隣へと身体を倒す。

静かな、張り詰めたこの空間が、やけに居心地悪く感じてしまう。口内の唾液をぐっと飲み込んで、頑なに瞳を閉じた。早く朝が訪れてほしい。この気まずい空間から逃げ出したくてたまらなかった。

「…ファーストネーム、さん…」

ぽつりと呟かれた声と共に、背中に温もりを感じた。背中を通じて感じる温もりは、よく知る暖かな温もりだった。起きているのかと振り向くが、彼の瞳は閉じたままだった。

いつもと同じ彼の寝顔に安心したのもつかの間、一筋の滴が、ナツの瞳からこぼれ落ちた。

涙を流し、私の名前を呼んでいた。
ただそれだけのことなのに、私は心を締め付けられるような苦しさを感じた。苦しくて、悲しくて、切なくて。息もできないような圧迫感を胸一杯に感じた。

だけど、私が感じるこの苦しみ以上に、ナツはきっと…

そう考えるだけで、心が悲しく嘆いていた。

眠る前に聞いた、アースランドのナツの本音。
聞かずとも分かる、エドラスのナツの本音。

どちらの本音も、私には痛いほど理解できてしまい、だからこそ、自分はどうすべきか分からなくなっていた。

私はどうしたら…どうしたら、いいの。

残されたタイムリミットが刻一刻と迫る。誰かが悲しむ結末を、私は想像したくなかった。誰も悲しんでほしくない。誰も傷つけたくなんかない。そう心では願っているのに、現実は何故、こうも残酷なものなのか。

どうにもできない現実を憎み、歯痒さのあまりに、私の瞳にも涙が滲む。やるせないまま、そのまま私は朝を向かえた。






「なんだ?寝不足か?ちゃんと寝ないと駄目だろ」

「…寝不足じゃ、ないよ。ちょっと疲れがとれてないだけ」

「…無理すんなよ」

「…うん、」

「………うっぷ…気持ち悪ぃ…」

「だらしねぇーなー!なんだ、アースランドのナツは乗り物に弱ぇのか?」

「まぁ…滅竜魔導士だからね…」

「ふざけた野郎だな。俺として恥ずかしいぜ」

「……ぅ…うる、せぇ…うっぷっ」

「あーもー!車で吐くなよナツ!もうすぐで商店街につくから!あともう少し我慢してろ!」

「……もぅ、…むり」

「ぎゃー!!!あたしに寄りかかってんじゃねぇよ!!吐くなよ吐くな!!」

後部座席で騒がしいナツとルーシィを見つめては、ナツと共に呆れながらため息をついた。相変わらず、私の知るナツは乗り物が苦手なようだ。
今朝はギルドの食材の買い出しにへと、近くの商店街を訪れていた。本当は私とエドラスのナツだけで行く予定だったんだけど、ナツもついてくるって聞かなくて…そしたら、ルーシィも共についてきてくれて、今に至る。

「ほら!見えてきたぞ!商店街だ!ナツ!もう少し我慢しろよ!」

「ル、ルーシィ…」

「ば!!お前、何処触ってんだよ!?触ってんじゃねぇ!!」

「おい、俺!騒がしいぞ、静かにしろよな!」

「いや…騒がしくしてるのはルーシィだけだけどね、」

そうこうしている内に、商店街へとたどり着いた。吐きかけているナツを連れ出し、トイレへ駆け込むルーシィ。そんな二人を苦笑いしながら見つめては、こちらの世界でも、騒がしい二人だなと改めて思った。