LastChristmas
『忘れられないクリスマスはありますか?』
そんな質問を街角でカップルに向けて問いかけていた。そんなカップルを横目で見つめながら、急ぎ足でその場を立ち去った。
キラキラと輝く街並みは、いつにも増して華やかで。お決まりのクリスマスソングが街中にいっぱい溢れては、私の記憶を揺さぶった。
高校生最後の冬休み。ヒーローを目指していた彼と過ごす最後のクリスマス。高校を卒業してからは互いの進路が違ってて、来年のクリスマスも一緒に居られるか分からなくて、そんな中向かえるクリスマスだった。
「なぁ、」
「何?」
「…俺はテメェを、幸せにできねぇ」
今年のクリスマスプレゼントは何かとか。今年は何を食べるとか。そんなことだけを考えていた。だからこんな台詞を聞くなんて、夢にも思わなかった。なんでって私の問いかけに答えることなく彼は私の前から姿を消した。気づけばポケットにはラッピングされた小さな箱が入っていて、箱の中身は開かなくても分かっていた。私が欲しいと言ったもの。ねだるわけじゃないけれど、雑誌を見ていたら不意に言葉が漏れた。そんな物をプレゼントしてくれるような、そんな優しい人だった。
思い出になんてできない。忘れることなんてできない。彼以上の人なんて、どこを探しても見つからなくて。あぁ、こんなことならあの日どうせなら、このプレゼントを投げ返してやるんだった。どうしてさよならと一緒に教えてくれなかったの。ほかの誰かの愛し方なんて、全く知らないのに。
毎年クリスマスになる度に思い出すこの記憶と共に、いっそ全部、かっちゃんと過ごしたあの日々を無くしてしまいたいのに。
「クリスマスなんて、大嫌い」
「…あ?昔は大好きだったじゃねぇか」
「えっ…」
もう二度と、私の耳へと届くはずのないその声が、もう一度聞こえてくるのは何故だろう。クリスマスの幻なのか。訳も分からず振り向けば、サンタクロースに見えてしまう、そんな人物がそこには立っていた。
「何、してるの。そんなところで…」
「あ?トナカイを迎えに来てやったんだろ」
「トナカイ?」
「ずっと居なくなってたアホトナカイを、連れ戻しに来たんだよ」
「…意味が分からない、どういうことなのそ」
クリアな視界がボヤけてきて、彼の言葉が理解できなかった。だからなのか、瞳がゆっくりと揺らいでは熱い何かがこぼれ落ちる。
「意味分からない。何してるの、離してよ」
「離すかよ。もう二度と、離したりしねぇ」
耳へと響くメロディーが、私の心を温めた。あぁ、もうバカな人。本当は全部わかってた。わざと私を遠ざけていたことも。ヒーローになるってことは、それなりに危険も付き物だと言うことも。全部本当は分かっていたから、本当はずっと待っていた。
「遅いよ…遅すぎだよ。何年待たせてるのよ、バカ」
「うっせ。段取りっつーもんがあんだよ、こっちにも。つか、待っとけなんか言ってねぇし」
「…素直じゃないとこ、変わってないよね」
「テメェも、頑固なとこは変わってねぇな」
白い雪へと溶け込むように、無くした時間を取り戻すように、私達はどちらかともなく唇をそっと重ね合わせた。