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朝の満員電車



「はっ!ぐぅ!ふっ!っよし!」


珍しく寝坊してしまった私は、いつも乗っている時刻の一つ後の車両へと勢いよく飛び乗った。乗り込んだまでは良かったのだが、あまりの人の多さに目眩がし、思わず頭をかかえこむ。

何度か試行錯誤を重ねながらも人混みを掻き分け、やっとのことで座れた席へ腰を落とした。
非常に大変だった。まさか一つ時間をずらしただけで、こんなにも人が多いとは。
ふと前を見れば、自分と同じ制服を着た生徒が立っていた。同じ学校の人か。少しワクワクしながら顔を上げれば、一瞬にしてワクワクが消え去っていく。


「…」
「…」


無言の圧力で私を激しく、それはまた激しく睨みつけてきたのは、クラスメイトの爆破少年、爆豪勝己くんだった。


「…」
「…チッ」

早く席譲れやと爆豪くんの心の声が私の心に響き渡る。何をどうすれば人はここまでも恐ろしい顔になれるのか、誰か教えてほしい。
爆豪くんの威圧に耐えながらも、気づいていないふりをしようと試みて、瞳を閉じて狸寝入り作戦を実行した。


「っんがっ!!!!」
「今すぐ殺されてぇようだな、モブ女」


瞳を閉じた瞬間両頬を片手で掴みあげられて、女子とは思えないような顔になる。目の前の人物を見上げれば、更に目元がつり上がり、鬼の形相をしていいた。


「ほぉ、ほぉはよぉ、ぼぁくぼぉぶぶん」
「ぁあ?なめてんのかテメェ」
「ぶぁふぁふぃてふぅふぇなぃと」
「黙れカス!さっさと退きやがれ!」


うまく喋れてないわりに、ちゃんと私の言葉を理解してくれていた。頬の痛みの限界がきたので爆豪くんに席を譲れば、これまた不機嫌そうに私が座っていた席へと腰をおろした。
こんな恐ろしい彼がヒーローを目指しているだなんて、この場にいる誰が聞いても嘘だと答えるはずだ。もし仮にヒーローを目指しているとしたならば、か弱い女子をこんな満員電車の中立たせるだろうか。ヒーローならば席を譲ってくれ、尚且押し潰されないようにと守ってくれるはずだ。
どうみてもヒーローとは思えない爆豪くんを見つれば、無意識のうちにため息が漏れる。


「…ほぉ、俺の前でため息なんざぁ随分早死にしてぇようだなァ」
「え!?ため息!?バレてた!?」
「バレとったわカスが!!!」


再び一発即発となりそうだったがその瞬間、勢いよく電車が揺れて、背後にいた人に体当たりされてしまう。バランスをとれずにそのまま前方へと倒れこんだ。間一髪の所で壁に手をつき、目の前の人物への衝突を防いだ。危ない危ない。もし仮に爆豪くんを押し潰していたら、容赦なくあの世行きだっただろう。ふぅ。ため息をつきながら体制を元に戻そうとするが、変な位置へと足がずれていて、思うように踏ん張れずにいた。

端から見ればまるで、私が爆豪くんをこの人混みから守っているように見えるだろう。私の方が彼よりヒーローに見えているはずだ!そう思うと自然と口元が緩んでいく。


「…どけやクソが。何ニヤけてんだキメェ」
「生憎どけやと言われましても足が踏ん張れなくてですね、どけないんです。だからこうして最寄り駅に着くまで爆豪くんの事守ってあげてるんですよ!私!なんてったって私はヒーローだからっ!」
「ぁあ?何言ってんだテメェ。俺の方がヒーローに決まってんだろが」
「ハン!!残念ながらこの状態を見れば私の方がヒーローに見えるんだよ!ははは!」
「ふざけんじゃねぇぞこのタレ目!!!そこどけやカス!!」


挑発したつもりはないのだが、挑発に乗った彼は私の腕を力強く引っ張った。その反動で再び私を椅子へと座らせれば、先程の私と同様に壁へ手をつき激しく睨んできた。


「モブはこうやってヒーロー様に守られりゃあいいんだよ」
「…モ、モブってねぇ…」


そんなことを言いつつも、端から見れば優しく私を守ってくれているように見えるこの状態を見て、自分の心臓が一瞬飛びはねたような感覚がした。不機嫌ながらも人混みから私を守ってくれている。そう思えば、なんだか知らないこの感情が妙に心を揺さぶるのだ。


「何見とんだ、ぶっ殺すぞ」
「…」


いつものように怒鳴りながら放つ言葉とは違い、低音で何倍も威圧感を感じる彼の言葉に、先程の感情が一瞬にして消え去っていった。
慌てて視線を逸らして、これ以上関わるのはやめておこうと気まずい空気の中、雄英の最寄り駅に着くまで堪え忍んだ。

お目当ての駅に着けば、私の事を見向きもせずにそそくさと出ていく爆豪くん。流石、凄い個性の持ち主だ。爆破の個性じゃなくて、性格の個性というか、まあ個性です。これじゃあ出久くんがトラウマになるのも当たり前だよね。私も既にトラウマだし。

遠ざかっていく爆豪くんの背中を見つめながら、私も学校へと足を進めた。