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ヒーローの存在



目が覚めた。そして目の前の光景を見て、思わず肩を竦めてしまう。
殺気に満ちたヴィラン三名とオールマイトが戦っていた。いや、正確に言えばオールマイト以外にも轟くんや切島くん、爆豪くんに出久くんまでがヴィラン相手に身構えていた。
少し離れた茂みに横たわっていた私は、身体を起こして、どうするべきかと頭を悩ませた。その時だった。

「危ない!!」

とっさに口から出た言葉と共に、自分の個性を爆豪くんに向けて放った。黒霧の男を押さえつけていた爆豪くんを、仲間と思われるヴィランが襲いかかってきていたのだ。
感情のコントロールが不安定だった私は、個性の制御が出来ずに思った以上の力を使ってしまった。そのお陰か、襲いかかるヴィランを広場近くの水辺まで吹き飛ばし、爆豪くんの身体も安全な場所へと飛ばす事ができた。


「…名字少女!」
「名字さん!」


皆の視線が私へと集まる中で、一人の男の視線が私の元へと向けられた。


「…今の個性…嘘だろ?お前、あいつらの子供かよ…」
「いかん!名字少女!直ぐ様身を隠すんだ!遠くへ逃げろ!」
「え、」


オールマイトの焦った声を耳にして、更に鼓動が加速した。先程の男の声に聞き覚えがあったからだ。随分昔に、そう。両親を殺されたあの日に、確かにこの人物の声を聞いていた。


「脳無」


男が一言呟けば、先程爆豪くんを襲っていたヴィランが、私目掛けて襲いかかってきた。あまりのスピードに身体が追い付けなくて、もう一度戦闘体制を身構えた瞬間、私の身体は宙に浮いた。


「え、」
「…何ボケっとしてやがる、クソタレ目」


爆破を利用して、瞬時に駆けつけてくれた爆豪くんが、私を抱えて皆の元まで運んでくれた。ターゲットを失った脳無と呼ばれるヴィランが、こちらに向けて責め寄るが「やめろ」と男が声を放った。それと同時に攻撃を止めて、男の元へと戻っていった。


「爆豪少年すまない、ありがとう」
「なんでオールマイトが礼言うんだよ」
「本来ならば私が救出しなければならないものを…。名字少女、今この場で君の個性は使ってはいけない。出来るだけ、身を隠すんだ。私の後ろにいなさい」
「どういう、事…」
「…こんなとこに、いたのかよ…随分探してたのに、見つからないはずだ…」
「黙れヴィラン。この子は君達には渡しはしない。絶対にな」


激しく睨み合うオールマイトとヴィランの男。何がどうなっているのかと混乱していたら、ふと感じた別の視線。顔を上げれば、緋色の瞳が私一人を映していた。
 

「ばく、ごう…」
「…離れんじゃねぇぞ。名前」


不意に呼ばれた自分の名前に目を見開いた。こんな危機的状況だというのに、ドキドキしてしまっている私はヒーロー失格である。名前を呼ばれただけで、胸が熱く苦しく感じた。


「プロの本気を見ていなさい」


オールマイトのサポートをして、なんとか目の前の敵を撃退しようとしていた私達にむけて、オールマイトが言葉を吐いた。逃げるようにと指示する言葉でもあるが、その言葉はどこか希望の星のように感じた。


「爆豪少年、名字少女を頼んだよ」
「…あぁ」


オールマイトの言葉を聞いて、更に苛立ちを募らせる死柄木と名乗る人物。逃げるようとその場から離れる私達を見て、逃がさないとこちらへ向かってきていた。だが、オールマイトの気迫に衝撃を受けたためか、その場で立ち止まり、思わず後退りをしていた。


「…す、凄い」


思わず口から漏れた言葉は、オールマイトの凄さを改めて実感したからだ。間近で感じるオールマイトの気迫に、その場にいた誰もが呆気にとられて目を見開いていた。


「"無効"でなく"吸収"ならば!限度があるんじゃないか!?私対策!?私の100%を耐えるなら!さらに上からねじふせよう!!」


100%以上の力で、何度も拳を打ち込んで、他のヴィラン達さえもを圧倒した。圧倒的力の差の前では、オールマイトに誰も太刀打ちできなかったのだ。


「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!敵よ、こんな言葉を知ってるか!?プルス・ウルトラァァァ!!!」


この日初めて私は、ヒーローの本質を知ったように思えた。彼らはどんな時でも、希望の星で居続けなければならない。プロヒーローの存在が、ここまで人々を救うものなのかと身をもって体験した。じわじわと胸の奥から溢れ出てくる熱い感情と共に、私が目指しているものは彼なのだと改めて実感する事ができた。


「1-Aクラス委員長飯田天哉!ただいま戻りました!!」


そして彼もまた今の私達にとって、最高のヒーローのように思えた。