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氷 v s 風



「ヒーローチームウィィィンン!!!」


オールマイトのその声が、モニタールームに響き渡った。勝ったはずの出久くん達が倒れていて、負けたはずの爆豪くん達が無傷で立っていた。
呆然と立ちすくんでいる爆豪くんを見つめれば、更に胸が苦しくなった。

自尊心に陥る爆豪くんに気がついたオールマイトが、彼の側へと直ぐ様駆け寄っていた。流石オールマイト、生徒一人一人の感情までしっかりと把握しているようだ。

爆豪くん達が戻ってきたら、今回の対戦についての好評タイムが始まった。ヤオモモちゃんがすらすらと対戦について話す中、私は爆豪くんから目が離せなかった。そして声をかけることのできない自分をとても惨めに思った。


「さぁさぁ!気を取り直して次の対戦だ!!次の対戦チームは…ヒーローチームはB!敵チームはIだ!さ、移動してくれ!」
「俺達か!」
「なんか緊張してきたね!」
「うわ〜二番手か!ドキドキする…」
「頑張れよ!名字!こっから応援してんぞ!」
「き、切島くん…」


切島くんの男らしい声援を受けて感動しつつ、会場となる廃ビルへと移動した。開始の掛け声がかかるまで尾白くん達と共に作戦会議を始めた。


「うわわ〜!対戦相手轟くんがいるよ!尾白くん!名前ちゃん!」
「大丈夫、なんとか策を立てよう…そういえば名字さんの個性まだ知らないんだけど。なんなの?」
「そういえば個性把握テストの時も使ってなかったよね!?」
「色々とありましてね…まだそんなに上手く使いこなせないんだけど、私の個性は風です!手のひらと足の裏から風を吹き出す事ができるの」
「風!?すごいね!!それって空飛べたりするの!?」
「一応宙に浮くことは可能だけど、使いすぎたら気持ち悪くなっちゃう…役にたてるか分からないけど、自分のできる限り頑張ります!」
「風なら俺らが有利かも!轟って確か、個性は氷と炎だろ?炎使ってるところ見たことないけど、もし炎で攻撃してきたら名字さんの風で対処できるし、氷だった場合も瞬時に風を纏えば凍り付く時間を遅らせる事ができるんじゃ…相手が怯む間に俺と葉隠さんが攻撃すれば…」
「す、すごい!尾白くん!頭キレッキレだね!」
「多分戦い合っても相手チームには敵わないと思うから、せめて全力で核を守り抜こう!」
「そうだね!よっし!私ちょっと本気だすわ!手袋もブーツも脱ぐわ!」
「…これでより一層透ちゃんがどこにいるかわからんなぁ…」


私の声をかき消すように「対戦開始」と叫ぶオールマイトの声が聞こえた。障子くんの個性も中々不思議なものだが、轟くんに関しては推薦入試の時もずば抜けて凄かったのを覚えてる。気を引き締めておかないと一瞬でやられる可能性も十分にある。
そう思っていた矢先、一瞬だが体感温度が少し下がった気がした。それを感じて真っ先に思い浮かんだのは轟くんの個性だった。
足裏に自身の気をこめると同時に、二人に向かって危ないと叫ぼうとした瞬間、一瞬にして辺りが凍り付いていた。


「なにこれ!?冷たっ!痛たたたたっ!!」
「轟の攻撃かっ!…名字さん!そっちはどう?」
「な、なんとか間一髪で攻撃は避けれたけど…今の私じゃそんなに長くは持たないかもっ」


いつも暴走していた個性を、上手くコントロールできていた事に少しばかり驚いた。
やればできるじゃないか。自分を少し見直した所で状況を整理する。透ちゃんと尾白くんは足が凍りつき身動きがとれない状況だ。
ここまでの威力のものだと、多分ビル全体が凍らされている可能性が高い。尚且障子くんまでも凍らせてしまう場合もあるため、もしかしたら障子くんはこのビルにいない可能性が高い。
だとしたら、この部屋に来るのは轟くん一人だけだ。


「透ちゃん!尾白くん!多分この部屋には轟くんだけが来ると思う!だから、私の出せる範囲の力で彼を核へ近づかせないように頑張ってみるね!」
「自分が情けない…頼んだぞ!名字さん!」
「名前ちゃん!頼りにしてる!」


尾白くんと透ちゃんが身動きがとれない今、この状況で核を防御できるのは私しかいない。
手足両方での個性使用は久しぶりになるが、二人を救うためにも私がやらなければならないと腹をくくる。上手くいくかどうかなんて考えず、ただただ手足に気を集中させた。
深く深呼吸をして、足へと集中させていた気を手のひらへと徐々に移動させる。
狙いは轟くんが部屋に入ってきたその瞬間だ。彼はとても頭がキレるだろうから、考える余地を与えてしまってはこちらに勝ち目はない。

緊張感に包まれて静まりかえるこの部屋のドアノブが微かに揺れた。今だ!!


「爆風バリアー!!!」
「凄いネーミングセンスだね!名前ちゃん!」


私の風がドアを吹き飛ばすが、轟くんの姿はなかった。


「えっ…いない!?」
「……やはりそうきたか」


聞き慣れない声がすれば、その声と同時に轟くんが姿を現した。


「ま、まさか隠れ身の術!?」
「術ではないと思うな…」


焦る私を他所にずかずかと部屋に入ってくる轟くん。口から吐く吐息が凍えついていくのがわかる。
これが彼の実力なのか。


「…名字の個性は確か、風だったよな」
「な、なんで知ってるの!?」
「入試ん時、少し使ってただろ」
「ど、洞察力が半端ねぇ…」
「あん時あんま個性使ってなかったから、いまいちどんな個性かと絞りこむのに時間がかかったが…個性云々よりもお前の身体能力はずば抜けて高かった。だからまず俺が攻撃したとしても、名字は避けて俺が部屋に入ってくんのを見計らって攻撃を仕掛けてくると思ってな」
「頭のよさが痛いほど伝わってきて、泣きそうだ…」
「泣かないで!!名前ちゃん!!」
「…ま、名字がどう足掻こうがお前らの負けは決まっている。この狭い空間で風をおこせば周りを巻き込む可能性が高いし、風と氷とでは相性はあまりよくない……相手が悪かったな」


諦めろと冷たく放つ轟くんに対して、悔しさが込み上げてくる。もしこれが訓練ではなくヴィランとの戦場の場だったならば、今私が諦めてしまっては仲間を見捨てることになる。だが二人とも足が凍ってしまっているため、時間がたつと共に皮膚の壊死が始まってしまう。私には迷っている時間なんてどこにもなかった。仲間を救うため、人々を救うために私はヒーローになるって決めたから。


「ごめん!尾白くん、透ちゃん!吹き飛ばされないように何に掴まってて!!そりゃぁあああ!!!」
「今度は掛け声なんだね〜!!!」
「なにっ!!」


こちらへと徐々に近づいてくる轟くんに向けて、範囲の狭い強風を吹き付けた。風が一ヶ所に向けて吹き付ける中、耐えきれなくなった建物の壁が破損してしまい、大きく穴があいてしまう。予想もしてなかったためか一瞬たじろう様子を見せたが、直ぐ様ガードの氷を自身の前後に作り出し強風を防いでいた。


「…驚いたな。こんな使い方もあるのか…だが、先に本体を凍らせてしまえば問題は、ないっ!」


轟くんの氷が勢いよく自分の元へと向かってくる。食い止めるためにと更に力を振り絞って強風を暴風へと変換させる。
じりじりと両者の攻撃がぶつかり合う中で、最初にダウンしたのは私の方だった。


「ごめん…二人とも…」
「名字さん!!」
「名前ちゃん!!」


二人の掛け声が聞こえた後に「ヒーローチームウィィィンン!!!」と高らかく叫ぶオールマイトの声がした。今の私にはこれが最大限の力だった。情けないにも程がある。


「………き、気持ち悪い…」


そこで私の意識は途絶えた。