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07.Sense of guilt

私がナツと連絡をとらなくなって丁度一ヶ月がたった。

一ヵ月しかたっていないのに、ナツと抱き合った日々を昨日のように覚えている。

私が嫌いだった甘い香りも私の部屋から消えているにも関わらず、私はあの香りを微かに求めてしまっていた。
嫌いなはずなのに、あの香りがすれば彼が私の側に居てくれる。そんな矛盾が自分の思考を乱していく中、私の渇きは癒える事はなかった。

私とナツの関係が終えた事をグレイに伝えると、彼は酷く安心したような表情を見せた。
そんなグレイの表情を見て、またひとつ私の胸が強く傷んだ。

そしてそれと同時にグレイからの思いも言葉として伝えられた。


『俺は、@を…必ず幸せにする』


そんなグレイの言葉さえも今の私にはとても輝いて聞こえた。
もうそろそろ幸せになってみてもいいんじゃないかと、自分の声が聞こえた気がした。

確かにそうだ。
学生時代からずっと、私は何度も何度も辛い思いをしてきた。いけないことだとわかっていても逃れる事ができなくて、そんな自分に嫌気がさしながらも再び彼を求めてしまっていた。

自分の欲とは正直なもので、頭で考えていても上手くコントロールが効かないのだ。

だけどそんな日々からも、やっと抜け出す事ができた。
自分の求めていた『本当の幸せ』を見つけるためにも、私は彼との関係を終わらせた。

そして目の前にいる自分の事を愛してくれる人と共に幸せになるんだと、私は心に決めていた。

なのに、何故、


「……どうしたの?」


「…すまねぇ、なんか萎えちまって…」


「…あんなに興奮してたのに?」


「……ごめん」


私の上から身体を離すグレイ。
今日はお互いお酒も飲んで昔話に花を咲かせて、いい雰囲気のままホテルへとやってきた。

彼から受ける口づけをされるがままに受け入れていたら、そのままベッドへと押し倒された。

彼が私の首筋へとキスを落としていくうちに、不意に悲しく私を見つめてきた。


「…なぁ」


「何?」


「…俺は@の事が好きだ。学生の時からずっと…お前だけを見てきた。だから、お前の事ならなんだってわかる…」


「…どういう意味?」


「…俺は@が好きだ。愛してる事も変わりねぇ」


「うん…」


「……@は、俺の事どう思ってんだ?」


「グレイの事?勿論すき」


「本当にそうか?」


「えっ…」


「…本当に、そう…思ってんのか?」


「私は、本当に…好きだよ…グレイの、事…」


「だったら!!!!」


「っ!」


「だったらなんでっ…そんな悲しい表情してんだよ…」


「えっ…」


急に声をあらげるグレイに驚きつつも、彼の言葉に胸を打たれた。全ての思考が一度停止したかのように、私は呼吸する事さえ忘れてしまう。


「@を抱こうとすればいつも!!!…いつも、お前は悲しげに俺を見て笑うんだ…」


「わ、私そんなつもりじゃっ」


「……すまねぇ、今日は帰る」


言いかけた言葉を、口にする事ができなかった。苦しそうなグレイの顔を見れば酷く心が痛んだからだ。

部屋を出ていくグレイの背中を見つめるだけで精一杯だった。自分をこれ程までも憎く思った事も初めてだった。


私は、どうしてこんなにも馬鹿なんだろうか。

グレイの優しさに、愛情に…ただただ甘えていただけだった。グレイの優しさを自分の渇きを癒すために、利用していたにすぎないのだ。

自分の知らないうちに、私は、グレイと彼を重ねてしまっていたのか。


『@』と私の名前を呼ぶ声も。

『愛してる』と囁く優しい声も。

震える私を包みこんでくれる温もりも。

全部、全部、ナツと重ねてしまっていた。


知らないうちに私は、グレイを…



沢山、沢山、傷つけてしまっていた。


そんな自分の愚かさにただただ涙が止まらなくて、薄暗い部屋の片隅で一人静かに泣き崩れた。
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