「ふひぃ…っ」

頭の中、ぬるま湯に突っ込んだような気怠い暑さに、思わず声が漏れる。

梅雨が明け、さて夏本番と照りつけ出した太陽の下、教室へと辿り着いただけで、この有り様だ。


「なんて間の抜けた声出してんのよ。情けない」

凜とした風が吹いたような涼しげな声音に振り返れば、教室に着いたばかりの出雲ちゃんが立って、こっちを見ていた。

声と同様、凜とした顔付きはひどく涼し気で、暑さの苦手な俺はつい羨ましくなってしまう。


「出雲ちゃんはええなぁ、いつも涼し気で」

「何言ってんのよ。私だって暑いわよ。ただ、アンタみたいにダラけてないだけ」

「ほんまに?」

「当たり前でしょ!」


ツンとすました横顔に、不意に何気ない衝動が湧き上がる。

出雲ちゃんの腕を取り、白い袖口から無遠慮に手を差し入れた。

日の当たらないそこは、汗ばんでいても、ひやり、と心地よい。


「ちょっ…!なっ…なに…っ!//」


顔を真っ赤にして焦る出雲ちゃんの顔に、自分の顔をゆっくりと近付ける。

「……っ?!//」

大きく見開いたままの瞳を間近に見ながら、俺はその頬をぺろりと舐めた。

「ほんとや、ちゃんとしょっぱいわ。出雲ちゃんも汗かいてるんやな」

にこにこと笑って言うと、間なしに出雲ちゃんの鉄拳が飛んで、顎に衝撃を受けた。

「ちょぉ〜、なんでぇ?」

「何でじゃないわよ!馬鹿っ!この変態!!」

「ええっ〜?!」

「これから先、私の2メートル以内に近付いたら承知しないからね!!」


壁際まで飛びす去り、真っ赤な顔のまま、まるで猫が毛を逆立てるように威嚇する。


ほんま、かいらしーなぁ…。


警告を受けたとこで、さて、どないしようかな?







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