なにもかもが大きいこの部屋に来たのは、今日でちょうど10回目。
お嬢ちゃん、今夜暇なら食事でもどう。憧れの大将からのお誘いにほいほいついていったのは、ちょうど3ヶ月前の今日。


海軍の掲げる正義と現実のずれに、下っ端風情でどんどん落ち込んでしまうころ、彼の掲げる正義は拠り所だった。

理不尽な要求と無駄な戦闘ばかりを繰り返す上司の多さに、3ヶ月前のわたしは幼いことからの夢だった道を諦めようとしていた。




「起きたの、なまえちゃん」

事後にはいつも眠ってしまうわたしと引きかえ、常時眠っている大将はなぜか起きていて、こうして温かい飲み物を入れてくれる。今日はホットミルク。もう少しここでゆっくり眠っていていいと、期待してしまうから嫌になる。
時計の時刻はかろうじてまだ今日をさしているだろう。今なら帰宅にはまだ遅い時間ではない。

「いただきます」

それでも、こうして受け取ってしまうのは、わたしが大将に相当入れ込んでいる証拠なのだ。

「どう、なまえのために特別砂糖を入れてみたんだけれど」
「とても、おいしいです」
「ん」

そう言って、隣の大きく開いていたスペースに潜り込んできた。

「もう、12時まわったよ」
「あ、そうですか」
「夜道は危ないから、泊まっていきなよ」
「お心遣い感謝します」

二の句はつげない。わたしは3ヶ月前までは確かにもっていたプライドをどこに忘れてきたのだろうか。

今日で10回目。週に1度、大将はわたしを抱いて眠る。その腕の中でわたしが涙すら流せない、自分のあさましさを恥じて消えてしまいたい思いに駆られているとは知らずに。




彼女がこの部屋に来て、今回でたしか10回目。
今まで女の子を部屋に入れたことはなかった。今まで抱いてきた女は、何も知らないふりができて、俺が海軍大将だということを忘れさせてくれる、賢い子ばかりだった。
けれど、この子は違う。下っ端で腕っ節も強くなく、けれど正義に対して確かに思い入れのある、その辺にごろごろいるだろう普通の女海兵だった。
こんな子と接していると、余計に大将としての気持ちが強くなる。けれどそれを心地いいと思っている自分がいた。

「いただきます」

自分の差し出したホットミルクをなんの疑いもなく受取る様子は、一見俺に心を許している。
けれど違う。この子はまだ心に大きなわだかまりを抱えたまま、この部屋に来ている。

「もう、12時まわったよ」
「あ、そうですか」
「夜道は危ないから、泊まっていきなよ」
「お心遣い感謝します」

この子の余計な劣等感が悪いのか、俺の口下手が悪いのか。多分両方だ。
しかしどのみち、この子とは長い関係になりそうだ、し、なりたいと思う。俺の腕の中で縮こまって眠るなまえを見て、そう思った。



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すれ違いと交差点


11/1022

上げるのを忘れられてたかわいそうなお話
これ、一番忙しい時期に書いてる…何考えてたんだろ…

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