「ごちそうさまでした」

お酒の入ったどんちゃん騒ぎの中、わたしのつぶやきは誰にも聞かれることなく宙にういた。
このまま消えてしまいたい気分になって女部屋に戻ろうと思った。誰にも断らずその場を去る罪悪感と清々しい気持ちがごちゃまぜになって、笑っているのか泣いているのかわからない音が鼻を抜けて耳に届いた。

2ヶ月前にこの船にのったばかり。
ルフィの「お前、仲間になれよ」という一言を受け入れてしまった。同じことの繰り返される毎日に飽き飽きしていたし、麦わらの一味全員の顔がキラキラしていたから、わたしもいつかこんな風になりたい、生きがいがほしい、なんて思ったから。
けれど、こんなただの田舎娘にできることは、精々洗濯や掃除くらいで、料理は超一流のサンジくんがいるし、考えなければならない場面ではロビンが大活躍、戦闘なんてもっての外、人を殴ることすらできないのだ。

どうしてここにいるんだろう、理由なんてもともとないのに理由を求めてしまって、今日のように憂鬱な日を過ごしている。

誰かに気づいてほしい、助けてほしい「なまえにいてほしい」と言ってもらいたい。

でもそんな思惑は実現されることはない。いっそルフィに次の島で降ろしてと言いたいけれど、いいぞという返事が怖くてそれもできない。


理由が欲しい。この船に乗っていられる、誰の目から見ても正当、真っ当そのものの理由が。






秋島の近い、朝。
そんなことを思いながら眠ったからか、なかなか目が開かなかった。泣きながら寝たのかもしれない。
宴の後ということもあって、ナミとロビンの寝息がまだ聞こえる。
今、起きているとすればサンジくんくらいだろう。そして、彼は厨房にいる。

寝起き特有のぼうっとした頭で、甲板に出た。



寝起きの目には眩しいくらいの風景が飛び込んできた。

まだ朝も早いのだろう、朝日が低い位置にあった。
海は凪いでいる。柔和な光が海面を照らして、雲を照らしていた。
見たこともない、美しい風景だった。


「きれいだな」

声がでないくらい驚いたのだけれど、ルフィがすぐ後ろに立っていた。

「な、なまえ」
「そうだね」

しししっ、と笑って、彼は自分の宝物を私の頭に乗せた。

「なあ」
「なに」
「きれいだろ、海は」
「…うん」
「おれ、こんな海をお前に見せたかったんだ」
「……」
「まだまだ、海はすごいんだぞ。わくわくするくらい波が高くなったりな、急に風が止まって船が止まったりな」
「へえ」
「こんなきれいなときばっかりじゃないけどな、楽しいぞ海は」


最後の方は、ほとんど聞こえなかった。
あふれる涙と鼻水を抑えるのに必死だった。

そんなわたしの肩をぎこちない動作で抱く船長の顔は、今日の海よりも眩しくて、一番の理由になる笑顔だった。



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心のすりあわせ


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