瓦礫のなかに、暖かくちちくさい香りが漂っている。
この海軍本部におよそ相応しくないそれに、周りの海兵もとまどいを隠せない様子で、どこかそわそわと落ち着きがない。
かく言う俺は、どこか予感めいたものに、こうして足を動かされているわけで、しかしどうも戦争というものの後遺症は大きく、目的地にたどり着くまでに平常の倍の時間がかかった。

そこには、女の子がいた。

頼りない肩を三角巾で固定し、よろよろと覚束ない足取りで部屋、もとい、瓦礫のなかをせわしなく歩き回っていた。風貌に似合わない軽やかな鼻歌まじりに。

ふんふんふーん

女の子は、大きな鍋で、何かを煮込んでいた。おかゆだ。

「モモンガさーん!ご飯は堅めがお好きですかー!」
「貴様、そんなものを作る暇があるなら溜まっている仕事をしろ!」
「えー?なんですってー?」
「なまえー!仕事をしろ!仕事をっ!」

女の子は怒鳴られても笑顔だ。
俺は、ほっとしたようなでもどこか不安な気分になった。

「書類はどれぐらい溜まった?!」
「塩味は効かせるつもりですよ!」
「なに?!」
「しーおーあーじー」

戦争でたくさんの人間が死んだ。足と腰を骨折して寝込んでいる中将も、笑顔の女の子も、その原因になった。
あの混沌とした場の中で彼らが何を感じ何を考えていたのか今度聞いてみようと思った。

しかし、それはこんどなのであって今でなくてもいい。
今はただ何もかもを忘れて、暗闇の中、やっと見つけた場所がそこにあるのだから。



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しあわせの居場所

11/0724

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