((現パロ))


昨日のよるはこの冬一番の寒さで、ごうごうという風の音とともに降り続いた雪が今朝、とうとうやんだ。
空はコロッと機嫌をよくした子供のように、今じゃあカラリと晴れている。仕事もお休み、今日は寝坊をした。
石油ストーブをつけ、ふと、自分の隣に喜八郎がいないことを知った。人一倍変化を疎ましく思う彼が、こんな日に外出なんて、らしくない。

しかし、大好きなプリンを買いに行ったのかもしれない。
別段気にすることもなく1人分の朝食を作り、食べた。

年末年始は、立て込んでいた。
結局今年は実家に帰れなかった。電話であわただしく新年の挨拶をした。
電話口で、父も母も兄も笑っていた。帰れるときに、帰ってくるのよ。母の言葉がとても身にしみた。
ここから新年度が始まるまで、あっという間にすぎるというけれど、そうそう忙しくはない。そんなことを考えていると思わず、安堵のため息がでた。身体は思っているよりも正直である。

もう一眠りしよう、そう思ってくしゃくしゃの布団に横になった。



中学のころの私が喜八郎と笑っている、夢を見た。



ずいぶん長い間眠っていたように思えたが、ほんの30分だった。
鮮明な夢を見た後の目覚め特有の興奮と気怠さを持てあましながら、周りを見た。喜八郎がまだ帰ってきていない。
中学のころから、喜八郎は愛らしい男の子だった。
そういうと今でも怒るのだが、彼の笑顔は特別私の心を掴んでいた。帽子を被って外へ出た。喜八郎はきっと、公園にいる。



公園までの道すがら、誰にも会わなかった。あんな日の翌日に散歩を決め込む人はそうそういないのだ。
しかし喜八郎は、お気に入りのブランコにのってぼうっとこっちを見ていた。周りは一面の白で、目がやられそうだった。

「おはよう、なまえ」
「おはよう」

キィ、キィ、喜八郎のこぐブランコの音が、耳にしっくりと馴染んだ。

「雪が積もっていてね、どうしても昔を思い出してしまったから、ここにいたんだ」
「昔って?」
「僕と、なまえが、中学生のころ」
「ふうん」
「僕、なまえに、初めて告白をしたんだよ」
「告白?なにを?」
「僕の、愛を。ふふふ」
「えー?」
「なまえは、覚えていないかもしれないねえ」
「そうなの?」
「そうなの」


先ほど見た夢、それには実は続きがあって、けれど喜八郎は私が忘れていると思っているから、黙っておいた。
あれは、今日のような、どっさり雪の積もった晴れの日。
喜八郎に連れられて、休みなのに学校の校庭で2人、ぐるぐる歩き回った。そのときに足を滑らせて転んでしまった喜八郎は、そのまま仰向けに倒れて起きようとしなかったんだ。

「喜八郎、どうしたの、早くおきな」
「ねえ、なまえ」
「なに?」
「僕は今、分かったよ」
「なにが?」

私は、大好きな喜八郎と一緒にいられる幸福よりもむしろ、こんな寒い日に外に連れ出されてしまった不幸を嘆いていた。

「雪にも、温度が、あるんだよ」
「はぁ…」
「いくら自分と比べて、冷たくっても、絶対に」
「そっかー」

それきりぷつっと黙り込んでしまったので、顔を見てみると、鼻のあたまと頬を赤くそめた喜八郎が、こちらを見ていた。
その喜八郎は、少し涙目で、深い瞳をしていて、ぎょっとしたのを、覚えている。




「ねえ、喜八郎」


今の喜八郎になら、言ってやれる。


「あったかーい、お部屋に、戻ろうよ」

にっこりと、愛らしく笑って立ち上がった。つないだ彼の手は冷たいはずなのに、そうと言い切れるものでもない。



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雪の中の温度


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