昨日の夕方から焼けるように痛い、喉。

今の時期、周りの女の子たちの脳内は、真っピンクに染まる。近所のだれだれくんと夏祭りに行く約束をした、だとか、最近赴任してきた海軍兵士とキスをした、だとか。
しまりのない口で、頬をみっともなく高揚させて、つまらない話を延々と。聞かされる身にもなってほしい。彼女たちは、私がそんな話に至極興味を抱いている、と勘違いしているらしい。
彼女たちはそれを、一様に恋と呼ぶ。私は恋を、そんな軽々しいものだとは思えない。



何年か前の秋、この島に海賊がやってきた。
乱暴もせず、横暴に振る舞うこともなく、穏やかで気の良い人たちだったことを覚えている。
そのうちのひとり、確か船長だったと思うけれど、その人に恋をした女性がいた。隣に住むきれいな瞳を持つお姉さんだった。
あの人に会うまでは、身なりも冴えなくて瞳だけがキラキラと異様な輝きを放っていただけの彼女が、日ごとにどんどん、それこそ、どんどん、目映いほど輝くようになっていった。
海賊は彼女に約束した。君を守れるようになったら必ず迎えに来る。それまでここで、待っていて欲しい、と。
彼女は待った。何日も待った。今度は日ごとにやつれて、やせ細り、仕舞いにはあの瞳の輝きさえ失ってしまっていた。
見るも無惨な彼女に島の人々は、海賊の言うことだ当てにしてはいけない。それより自分の体を大事にしなさい、などまるで見当はずれな言葉ばかり浴びせかけた。

あの日、私は海からの帰り道、彼女にあった。こんにちわと声を掛けると喉から絞りだしたような声でこんにちわ、と言った。


「喉、痛むんですか」
「そう、なの」


でも、大丈夫。そう言って笑った彼女は、以前の輝きを取り戻していた。
次の日、彼女は海岸に打ち寄せられ動かなくなっていた。どうやら泳いであの海賊に会いに行こうとしたらしい、ともっぱらの噂だった。

島の人々は彼女の無鉄砲な試みにただ言葉を飲み込むばかりだった。私はけれど、彼女が泳いで海賊に会いに行こうとしたなんて、思わなかった。




「おおい、なまえ!」

今、この島には別の海賊たちが上陸している。あの頃と同じ、気の良くてけれどにぎやかな。
店長は酒焼けで荒れた喉を常の倍は使って、酒をさばく。島でたった一件の小さなバーは言わずもがな、この海賊たちで埋まる。

「なまえ」
「なあに」
「ぼーっとしてたな、どこ見てた」

目の前のカウンター席で、無精髭を生やした赤髪が笑う。私の喉の痛みを知ってか知らずか、容赦なく酒を薦める。

「あたし、飲めないのよ」
「どうして」
「未成年だもん」
「ははは」

酒焼けなど、していないはずの喉がチリチリと痛む。
目の前の海賊はそんなことは知らぬとばかりに、強いお酒をぐいと飲んだ。



******

喉の痛み


10/1231

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -