扉の閉まる音がしたから、振り返って彼からの抱擁を受け止めようをした矢先、大きく踏み出されたのであろう一歩に不意をつかれ、気が付けばベットに横たわっていた。肩が痛い。どうやら突き飛ばされたらしい。
びっくりして、ぼやけていた焦点を彼の目にあわせる。いつもとなんら変わらない、穏やかな光をたたえていた。
止めていたらしい呼吸を再開した。ふうう、と深く息を吐き、体を完全にベットに預けた。次の瞬間には、体中から、笑いが込み上げていた。

「どうしたの?」

体を持ち上げて、笑い混じりに聞いても、彼は表情を変えなかった。
代わりにゆっくりとベットまで近づいて、締め付けるように私を抱きしめた。私の笑いも、だらだらと続いた。

「わけがわからないんだ」

彼の声には苦痛が滲んでいた。寄せられている眉根を想像し、私の笑いはますます深まるばかりだ。
彼は何かに苦しんでいて、私をぎうぎうと抱きしめる。
私は、醜い恍惚の表情をたたえたまま、ああこれが幸せなのか、なんて、涙を流しながら思うのであった。



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