俺の隣でこの女ときたら、間の抜けた声をたてて笑い転げている。
あははは、あははは、あははは、ひっきりなしに響く笑い声に、周りの男衆は、毎度の事ながらすっかり気分を良くしている。
女の髪は、海にいるとは思えないほどつやつやで、爪もきちんと手入れされている。しかしそれは見てくれだけの話ではなく中身だって言うまでもなく、真っ当に手入れされている。
女の目に涙が浮かぶ。笑い疲れてすっかり不規則になってしまった息は、この冬の気候では白く色づくのだった。
「よお、お嬢さん」
「マルコ…お水…ください」
「ほら」
喉をならして水を飲んだ。たちまち頬の筋肉がゆるみ、ぷはぁっという声を合図に顔中が綻んだ。
「いい飲みっぷりだよい」
「へへ、わたし、今とっても、良い気分なのよ」
「そりゃあ、なにより」
少し視線をずらせばエースが、見てくれと言わんばかりの気迫でどじょう掬いを始めていた。女はそれをみてやはり、笑う。
大きく開いた口から、女の心が見えるのなら一度、見てみたい。そこにはきっとじゅくじゅくとした質感で、独特の香りの立ち始めている部分があるはずなのだ。
その香りを、女はみじんも感じさせなかった。たった今まで。今、俺の目にはしっかり見えている。女の流す涙は、笑いからくる生理的なそれではない。あの男をおもって、女は涙を流しているのだ。
腰に腕を絡める男がいないからか、先ほどから女の腰はふらふらふらふらと危なげに揺れている。
そこに俺の腕がぴったり収まれば話は早いのに。なんて、あり得もしないことを想像したところで、俺のじゅくじゅくが、癒されるはずもないのだ。
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目を使わずに泣く方法
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