((死ねた))



なまえと過ごすと時間が経つのをわすれるよい。
そういうと、決まって彼女はしてやったと言わんばかりに口の端を歪める。
すっかりあぶらの抜けた手の甲を親指で撫でた。桜貝のような爪はついさっき、俺によって整えられたばかりだ。

なまえの瞳を見ていると周りが全部濁る。
例えば、枕元に置かれているいくつもの錠剤も、ゴミ箱に捨てられている血を拭ったあとの布きれも。
点滴を変えにくるナースでさえ、すべて。

どうして、こんなことになってしまったのか。しばらく考えてもわからなかった。
なまえに聞いてみたところで、俺以上の答えを返せるわけがないのだ。
親父になら、わかるのかもしれない。しかしそんなことなんの意味もないことだと、分かっていた。

「ねえ、」
「ん?」
「…知っていると思うけれど、わたしって、からだのよわい、子どもだったのよ」
「……」
「知らなかった?」
「ああ」
「そう、」
「……まるで今がそうでないような言い方だよい」
「え?」
「まるで、今がそうでないような、言い方だよいって、言ったんだよい」
「そうよ」
「ん?」
「今は、よわくないよ」
「……」
「いまは、ね」

知らなかった?
そういって、彼女がこぼした笑みは、この上なくすこやかだった。


なまえが死んだのは、それから3日後のことだった。



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からだのよわかったこども


10/0520

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