そこは、文句のつけようもない、素晴らしい場所だった。
柔らかな風が、私の来ている真っ白なワンピースを揺らした。おそろいのつばの広い帽子は、とっさに掴んだおかげで、まだ頭にはりついている。
それらに似合うよう、今朝はピンクベージュの口紅をつけた。こんなぼやぼやっとした色、私の趣味ではない、服のための口紅だった。
服と帽子は、ご丁寧にもクローゼットに掛けられていた。口紅と共に、初めての贈り物だった。
白に容赦なく反射する、日光。
目の前の男は、まぶしそうに眉をしかめた。たおやかに揺れる、名前も知らない木の陰に移動しても、しかしそれは変わらなかった。
片方しかない手のひらは、しきりに服の裾に擦りつけられている。唇をかみしめるのが見えた。
ずいぶんとオールドファッションドな趣向だ。
年季の入った肌に、堅い黒は似合わない。あなたはいつだって、赤を、光を、背負うべきだ。
汚れを知らないローヒールの白をコツリと鳴らし、一歩近づく。それを合図に、男はやっと、顔を上げた。
間近でみた男には、いくつもの大きな皺がくっきりと、刻まれている。
しばらくして男は、きっぱりと呟いた。
私の口角は上がり、手応えのない足元のせいで、視界がぼやける。
ぼやぼやした視界の中、愚鈍が香り立ち、私は男の腕の中にいた。
そこからは、海が見えなかった。
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たからばこの在処
10/0425