ルフィは、時々、海を見ているふりをしながら、ぼんやりと考え事をしている。
そう指摘したところで、そんなことない、と、きっぱり否定されてしまう。俺は考えるのとか、苦手だからな、と。
それは、きっと嘘ではないのだ。きっと何かが、無意識にルフィの行動を、停止させている。
みかんをもいでいると、いつだってルフィはこっそりくすねにくるのに、たまあに海の方へと顔をむけて、こちらをちっとも気にしないことがある。
いつも、海を見ているようで、実は船の中をちょろちょろと動き、楽しみ、笑うのに、あのルフィが、ぎくりとも動かない。
思わず、大事なはずのみかんを放り投げて背中にぶつけてやってみた。するとルフィはのろのろした動作で振り返り、みかんを手に取り、じっと見つめた。
ウソップ工場は、確かに開いている。けれど俺の手はさっきから止まったままで、工具もとうとう手放した。
ルフィの様子がおかしい。いつものようにサニーにまたがり、しかしいつもとはどこか違う。
こんなルフィを、今までに5回ほど、見たことがある。足にまるで力が入っていない、ゾウリがぬげそうだ。
レディ達にデザートを振る舞っていても、あのクソザルが見向きもしないことがある。
本当は、冷蔵庫にきちんとしまってあるのに、そんな日にはそれを取り出せず、持てあましてしまう。
いつもの、あの声が、聞きたいと切望する。サンジー、俺もー!たったその二言を、待ちわびる。
ルフィの様子がおかしいから、何かよくない病気かもしれないと思って、救急セットを取り出した。俺は医者だから。
けれど、ロビンに止められてしまった。肩を叩かれて、ダメよチョッパー、と。
どうしてダメなのか、聞いたけれどロビンは答えてくれなかった。ただ、少し泣きそうな顔をして笑うので、俺はロビンも心配になった。
とりあえず、まずはロビンの診察をすることにした。俺は医者だから。
ロビンを診療室に促そうとしたけれど、ロビンはじっと、ルフィを見ていた。そうして少しうつむいて、まっすぐに俺を抱いて、診療室に入った。
いつもスーパーな俺が、今日は調子がちょっと狂う。別にコーラが少ないわけでも、船の破損があるわけでもない。
鼻息をひとつもらし、サングラスをかけた。俺のアロハシャツが、世界が、少し暗く濁る。
船のシンボル、サニーの上は、よく見えなかった。
なんだかピアノを弾く気が引けて甲板にすっと立ってみれば、見慣れたはずの船長の顔が見えた。
だてに皆さんより長く生きているわけではない(まあ一回死んでるんですけど!ヨホホ!)のに、あんなルフィさんのような表情は初めて見た。
どうしたってなにも出来ない。今の私には、バイオリンさえ、担げない。
今日みたいな、
今日みたいな、朝焼けが世界を焦がす朝、私を思い出してね、ルフィ、気を付けて。いってらっしゃい。
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影
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