さむいさむい夜だった。
俺は、いつものように窓の近くにすわり、脳みそから酒がしたたるほど飲んでいた。
そこの外灯がぼやぼやと点滅している。
遠くで犬が情けない声を出すのが聞こえる、発情した猫が騒ぎ出す、春の、夜。
今日は、満月だ。
昨日との境もとうにすぎた頃、コツコツ、とヒールがアスファルトを叩く音が聞こえた。
それはだんだんと大きくなり、金属を叩く音に変わる。それがまたコンクリートを叩く音になり、きっかり5回で、音がやんだ。
瞬間、ガチャリ、と、遠慮がちな音が聞こえて、なまえの来訪を告げた。
ヒールを脱ぎ、一息間をおく、そうしてペタペタと部屋を縦断し、俺の背後でピタリと止まる。
そこで、また一息。
彼女の目は、いつだってギラギラと瞬いている。けれど、こんなときには、途方もなく濡れていることが多い。
そういうとき、ギラギラというよりも、つやつやと言った方が、いっそ正しい。
「どうしたんだ」
いつものように、なまえが安心できるよう出来るだけ低い声で、ゆっくりと振り返った。
案の定、なまえの目からは、抑えの効かなくなっている雫がボロボロと零れている。
月の光と、外灯の光。どちらが強いかなんて俺にはわからないが、そいつらがなまえの雫に反射して、とてもきれいだ。
「シャンクス……たすけて…」
さむい夜、猫の声が一際大きくなった。
俺は、なまえの体を丹念に愛す。なまえはそれに涙を流し応えながら、別の男の名前を漏らす。
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さむいさむい春の夜
10/0411
うちのシャンクスは、どうしてこうも、すんなりいかないのかなあ…