「やさしい人が好き」
そう言って、なまえは俺の胸に鼻をこすりつけた。俺はなまえの髪を撫でる手を止めなかった。
肉付きがいいのにどこか頼りない腕が、俺の首にのびてゆるゆると絡まった。右手の人差し指が耳の裏側を撫でた。
「どうして、やさしい人が好きなのよ」
「んー?」
「ねえ、なんで?」
「やさしい人が、好きかって?」
「そうそう」
「ふふ、そんなこともわからないの?」
「うん」
「だってね、あたし、やさしくないもん」
「ああ」
だからやさしくされるの、大好き。と呟いて、なまえはゆるゆると涙をこぼした。
俺はなまえの涙を拭った。彼女は、自分の体温のあたたかさが、そっくりそのままやさしさであることを、知らない。
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めにみえない糸
10/0409