目の前に、まるでなってない落とし穴が、ひとつ。
その中で、泥だらけでねむる女の子が、ひとり。
女の子に抱かれて満足気な、僕の、ふみ子ちゃん。
すべてに夕日があたって、とってもノスタルジック、だ。
もしかしたら、この穴をほんのすこし前まで、掘っていたのかもしれない。
なまえのことだ、きっと滝を困らせて、それからふみ子ちゃんを手にしてはりきって外に出たのだろう。
そのときのなまえは、勇敢な英雄のような顔をしていたに違いない。そんな顔になったときには、僕だって止めることは出来ないのだから。
ふちがギザギザで、幅も広い、これじゃあ、ただの穴ぼこだ。
素人が、僕の真似なんかするから、きっとなまえの手は、真っ赤になって、まめが出来ている。
ふみ子ちゃんをとりあげて、抱き寄せた。
目が、少し腫れている、ような気がする。
泣きながら穴をほるなんて、器用なことをするんだね、君は。
親しい土の匂いが、今日だけは、わずらわしかった。
「おきて、なまえ」
「ん…あれ、きはちろう」
「穴の中で、寝ていたんだよ」
「うん、そうみたいだね」
「……へったくそだねえこの穴」
「あ、笑った」
「えー?」
「ううん、おかえりなさい喜八郎」
「…ただいま」
なまえは顔をくしゃくしゃにして、なんだかよくわからない顔をした。
西の空には夕日と、そのとなりに金星がかがやいている。
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宵の明星
10/0401
これの続き、本当にただのおつかいだった、というオチ\(^o^)/