言いようのない焦燥感と怒りで、今のわたしは動かされている。
きちんと結われていたはずの髪は、どこかでほどけてしまって、ばらりとだらしなく広がっている。
実技には、ほんの少し自信があったのに、不意打ちにも、あなたは柔らかな表情を崩すことはなかった。
「どうかしたのか」
あなたの部屋、の、畳の上。あなたはわたしに組み敷かれて、わたしはあなたの胸ぐらを掴んではなさない。
「なまえ」
けれども、こんな時にも、あなたの穏やかな声色が損なわれることはなく、わたしの顔はますます歪むばかりだ。
横っ面をおもいっきり叩いてやろうとした、ら、
パンッ
受け止められるとばかり思っていた手は、思いの外、あなたの頬に当たってしまった。
「あ…」
「……ひどいなあ」
たまらなくなって泣き出してしまったとんでもないわたしを、あなたは黙って受け止めた。
頭をなでて、涙をぬぐって、それが当然のように。
どうすればいいのか、わたしはまるでわかっていないのに。
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希塩酸のしずく
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