喜八郎の部屋で、彼の帰りを待っている。
滝ちゃんはさっきから黙々と宿題をこなしているようだ。右手に持った筆の動きが止まることはない。
滝ちゃんのそういうところ、好きよ、と、呟いてみると、私のすべてが素晴らしい、と、返事をしてくれた。
律儀ね、滝ちゃんのそういうところ、好きよ、と言うと、滝ちゃんは筆を止めてこちらを向いた。


「なまえ、」
「なに?」
「……」


滝ちゃんは、黙ってしまってあたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。
太くて綺麗な眉毛が、今は歪んでいる。


「喜八郎なら、大丈夫だ」
「……知っているよ」
「ただの、おつかいなんだから」
「知っているよ」
「そうか」


そう言って、あたしの涙を拭ってくれた。滝ちゃんのそういうところ、好きよ。




再び、滝ちゃんが筆を動かし始めて、部屋がしんとしてしまった。
あたしのとなりには、今、喜八郎のふみ子ちゃんが、何も言わずにじっとしている。
先には少し泥がついていて、彼の不在が、なんだか不自然で、笑えてしまった。

彼のために、ひとつ穴をこしらえておこう。その穴を見て、喜八郎が少しでも、笑ってくれればいい。




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乾いた泥

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これが続き

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