健康的にやけた頬を、ぷくっとまあるくふくらませて、ルフィはへそを曲げている。またお頭にあしらわれてしまったのだ。
今日こそは、今度こそは、と、前向きで一途な態度は、まるであたしを遠い昔におくってしまうようだ。
56、と書かれているタンクトップは、彼そのものの実直さで、持ち主を守っている。


「良いタンクトップね」
「……」
「ルフィにとっても似合っているよ」
「…ホントか?」
「ええ」


いつからか、へそを曲げたこの子の相手になるのが、あたしの役目になっていた。
うちのクルーは、全員この子にメロメロなのだけれど、まあるいほっぺより、快活な笑顔の方が好きに決まっているのだ。
その笑顔に、あたしも例外なく、メロメロなのだけれど、ね。


「ねえルフィ」
「…なんだ」
「今まであたしが見てきた中で、いっちばん、心に残っている景色のこと、教えてやろうか」
「心に残ってるって、すごいのか?」
「ええ、凄いのよ」
「どんなだ?!」


それはねえ…と、あと一歩のところで、きまって邪魔が入るのだ。「おいルフィ!こっちにジュースあるぞ!」「え、ジュース?!」
お頭は、あたしの呼吸とルフィの呼吸、両方をわきまえて仕舞っていて、あたしも別段それにあらがう気もないのだ。

タッタッタッタ
この喧しい空間に、たった一つ、軽やかな音が響く。
あの小さな背中も、あと10年もすれば、きっと…


「やられたな」
「…副船長」
「なまえ、少しは懲らしめてやっても、いいと思うぞ」
「いーんですよ」


タバコをくゆらせて、副船長がほほえむ。あたしがその隣で、ルフィを眺める。
一番伝えたいことは、こころの奥底で、くすぶっていても、お頭がそれを望むなら、それでいいと思っている。

「今は、まだジュースなんですよ」
「ははっ」

にやっと笑って言ったあたしの言葉に、珍しく副船長は声を立てて笑った。

もうすぐ大きくなる、軽やかな足音。きっと2つのコップを持って、大きな声で、こう言うのだ。


「ほらなまえ、ジュース持ってきたぞ!」


ありがとう、と言って受け取る。あたしはそれで、十分なのだ。



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失いたくないもの

10/0315

ずっとこの辺のお話を書きたかったのです^^^◎

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