すんっ、と、土のにおいがして目を覚ました。
それからすぐに、マルコのにおいがした。
息苦しくて、寝返りをうとうとしたけれどうてなかった。マルコのしっかりした腕があたしにからみついているようだ。
目の前が真っ茶色で、それはマルコの首が日に焼けて真っ茶色だからだ、と、うすぼんやりした頭がうすぼんやりと考えた。


マルコは、まだ眠っている。
なんとか腕をはずして、起きあがれば、そこは一面のみどりだった。


なるほど、あたしは土のにおいがマルコの首から香ったものだと勘違いしていたみたいだ。そりゃあマルコの首は真っ茶色だから、勘違いしてもしかたがない。
ここは、どこかの島だった。


「起きたか」


背中のほうから声が聞こえて、振り向くとマルコが大きな口をあけてあくびをしていた。


「分かってねえ様子だなあ」
「…どうしてわかるの?」
「顔に書いてあるぞい」

「あたしたちは、どうしたの?」
「…まあ、平たく言えば」

遭難、

「……ひょー」
「……」



マルコによれば、昨日の夜中、海は大いにしけたらしい。
雨、風ともにとんでもないときに、あたしはねぼけて甲板に出て、ぽーんと海に放り出されて、それをマルコが助けてくれたのだそうだ。


「泳げたの?」
「…飛んだんだよい」
「あー…あっ、マルコ、どうもありがとう」
「…今更だよい」
「あはは、ごめんね」





まるっきり2人ぼっちだ







ざざあーざざあー

波の音しか聞こえないほど静かで、小さな島だった。葉っぱのすきまから、日の光がこぼれて、湿った地面にくっきりと形をのせていた。


「…静かだねえ」
「おお」


今、マルコのおなかに頭をのせて、ごろんとねっころがっている。
甲板でこんなことをしようものなら、さんさんと、容赦なく照りつける太陽に、こんがりローストされている気分になるのに、日陰はずっと、優しかった。


「ねえマルコ」
「んー?」
「おやじたちは、いつ迎えにきてくれるの?」
「…さーあ、ねい」
「えー、知らないのお?」
「知るわけねえよい、お前ぇが勝手に飛び出しちまったんだからよい」
「…そうだねえ」
「……」
「…ねえマルコ」
「なんだよい」
「もしも、見つけられなくって、迎えにきてくれなかったら、どうする?」
「さーあ、死ぬんじゃねえかい」
「えええー!」
「ここには、見たところ食えそうなもんもねえし、だから生き物が住んでる様子も、ねえし、な」
「死んじゃうの…?」
「おう」
「…そっかあ」


ずっと、死ぬなら、海の上だと思っていたよ。


「……墓でも、掘るか」
「…いいね、お墓の中で眠ろう!」
「おーおー、ロマンチックなこって」


あたしたちは、島の中央に墓を作るべく、歩き出した。

ふらりふらり、と、

マルコの体は、もう飛べないほどに力を、消耗しているようだ。

あたしたちの体が次の生命の糧になるのは、それから数ヶ月後のこと、だそうで。
マルコの顔に小さな黒いものがたかるのをぐわりと想像して、あああ、死にたくない、と、あたしもここにきて初めて、感じた。



******

消えてゆく2つの背中

((穴のなかで眠るあたしたちを、結局エースがみつけて、しこたまなぐられてしまった))

10/0227

((テンさんに捧げます!))

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