君が、いつも僕を見ていたことくらい、気づいていたよ。
けれど君は、三郎の膝枕でのんきな寝息を立てていたじゃないか。
それから、2人で君の部屋で、何をしていたのか、僕が知らないはずがないんだ。
その最中に、泣きながら、僕の名前を呼ぶことも、全部。


さっき、三郎が血相を変えて、部屋に入ってきたんだ。だから僕はここに居るんだ。
僕は別段、君と親しくはないけれど、僕がここにいることは、多分、とても自然なことなんだ。
君にまとわりつく、真っ白なシーツより、自然だと思うよ。






向こうの方で、善法寺先輩が話しているのが聞こえる。なるほど、今日が、峠らしい。



「さぶろう?」


「……、起きてたの」
「…いま、起きました」
「そう、そうか」






嫌な、嘘をついてしまった。


君は、僕をずっと見ていたのに、僕たちがこんなに近くにいたことなんて、そういえば一度もなかった。
僕は、君が目覚めたという事実よりもそのことに、驚いて、嫌な、汗をかいている。




「死ぬかもしれないって、思ったときに、」
「え?」
「死ぬかもしれないって、思ったときに、」
「……」
「不破くんが、見えたの」
「……」
「本当、です」


「不破くん、」
「……」
「ふわ、くん」
「…気づいていたの」
「はい」
「そうか…」
「わたしは、まだ死にません」
「……」
「まだ死にません」
「…今日が峠らしいよ」
「まだ死にません」



「だから、泣かないでください」





なまえの顔が歪んで、ただの肌色になってしまった時、頬の涙が拭われていった。
そうしてやっと見えたなまえの目を、思えば僕は初めて、受け止めた。

僕は、気づいてしまったんだよ。やっと。


「ひとりに、しないで」




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最後の一滴まで


10/0223

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