いつの間に、暗くてじめじめした所に、私は座っていたのです。
かろうじて、家。雨漏りとすきま風にはすっかり閉口しています。
大きな窓が海に面していて、そこから差し込む朝日は、希望の塊のような、尊さです。
小さくて豊かな島の、幸せなむすめっこだったのです、私は。
おひさまの匂いで満たされたふとんで毎日規則正しく寝起きし、
母を手伝い、父をいたわり、可愛い妹と遊び、暮らしていました。
幼なじみの、今はもう名前も忘れてしまいましたが、おとこのこが私を好きで、私もてっきりその子と、一緒になると思っていたのです。
おはよう、
ちょっと手伝って、
おねえちゃんー
今いいか?
ただいま。
見ちゃいけませんっ
もう慣れました。
幾分か気分が良い日は、お掃除をします。
すこしでも、清潔になるように、焼け石に水なのですが、祈りを込めて、畳をふきます。
荒れ果てた畳が、じわりと湿っていくのをみて、どうしようもなく泣きたくなりました。
大きな声をあげたくなりました。
昔、
大波に攫われてしまって、それこそ泣き暮らしていた私を、陸に戻してくれたのですが、その頃にはもう、元いた島など、すっかり遠くなって仕舞っていたのです。
自由になれ、と大金を置いていった大波を恨まない日はありません。
自由を根こそぎ奪って、また自由を与えて、もうそれは自由でも、なんでもないのです。
それに元々、そんなもの本当は、持ち合わせていないのです。
この、かろうじて家は、私がみつけました。
海が見える、大きな窓が、魅力的でした。
私を訪ねてくる、太陽を背負った大波を、いつまでも待っていられる大窓でした。
「久しぶりだな、」
いつだって泣きそうな顔をしている大波を私は決して許しません。
阿呆のように笑って、汚い畳に迎え入れます。
大波の姿をみとめると、大方の人々は散り散り逃げてしまうのですが、
私はもう、本当のお名前を忘れてしまったのでした。
いつか、お名前を思い出して、そのときにやっと私は、自由になれるのです。
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おだやかな自殺
((ずるい、と罵ってくれないのです))
09/1128