((死ネタ))
足抜けだよ足抜け。あああこれは、酷い。
夜になると輝く街は、お天道様の下ではとても見られたものじゃなかった。
後ろからつけてくるのは分かっていた。
だが俺はなにも知らなかった。美しい目とおそろいの髪をもった女の足は、確かに薄汚れていたのだが。
良いと思った。乗せてやっても。
あの真っ黒な瞳に映る海を見てみたいとも思った。
俺は今、女の言わせるところの「幸せそうに」笑っているのだろう。
ふらふら、ふらふら。
乾いた景色には、あまり似合わなかった。
船に付いた頃には、確かに気配はあった。
素晴らしい気分だった。
朝日を浴びる船、美しい女、そして海。すべてが揃っていた。
さあ、クライマックス。すべてがうまくいく。
万感の思いで振り返った俺を、だから誰も、責めてはいけない。
いつの間にか観客がいた。
足抜けだよ足抜け。あああこれは、酷い。
しかし何も、赤なんて用意する必要はなかった。
目の前で淡々と処理される女の、着物は鮮やかに沈んでいた。
臭いが確かに俺までとどいた。
雲一つない、晴天だ。
不意に、女が俺を見た。
見開かれた目と口から零れた液体が、また地面をぬらした。
けれど俺には分かっていた。だから大丈夫だ、安心しろ。
俺もそっちにいくよ。だが少し、お前は待っていなければならないな。
そう言ってやった。
…放置プレイね、女の声が聞こえた。
ああ、そうだ。
興奮するわ、
そうだろう。
女の胸で眠った晩、夢にみた景色は今も覚えている。
ばかみたいにカラリと晴れた空の下で、カラカラに干からびた薄汚い、一枚のぞうきん。
他の者は、薄汚れた掃除用具入れに居るのに、バカなやつだ。
しげしげと眺める俺を尻目にあいつはいつまでもカラカラだった。
「俺に看取られるとは、贅沢なやつだ」
そう言われ、うふふ、してやったり。笑った女の方が一枚上手だ。
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とある街、美しかった女
09/1111