あ、あの顔。
あの顔をみると、やっぱり、実感する。
普段、は組のよいこたちの相手をするときには絶対にみせない、
ふっと表情をなくして、目の奥にシャッターが降りる。
「やっぱり、先生はおとななんだね」
「…なんだいきなり」
間違ってわたしなんかとセックスをしてしまった日、先生はきまって機嫌が悪くなる。
ピタリとくっつけば、いつもなら握ってくれる手も、今日は居場所を探して、ふらふらしている。
「おとなだよ、先生は」
わたしは、
は組のよいこたちのように、かけっこもかくれんぼも、しない。
けれど、生徒のために胃をキリキリ痛めたりも、しない。
誰かのために、誰かのことに、ひとりの人に、真剣になるのがわからない。
背中にある無数の切り傷をかぞえていると、ふいに振り返った先生と目があった。
あ、またあの顔。
じっとわたしを見下ろして、けれど瞳には何も映していない気がした。
「君は、十分魅力的だよ」
「、…せんせい?」
こんなことを言うのは、言うというよりは漏らすに近いけれど、初めてだった。
瞬間、にっこり笑って帰りなさい、ときっぱり言われた。
「…やだ、」
「なまえ、もう遅い」
「やだ、もうちょっとだけ」
「なまえ……」
「土井先生、わたしだって……」
それ以上は言えなかった。
「先生、さようなら」
「ああ、気を付けてお帰り」
わたしはまだ、誰かを信じてしまうほど、おとなじゃない。
本当に、本当に大好きな、はずの、先生を、孤独にしてしまっている。
けれどあの顔はまだ凛々しくて、もう少し待っていてくれる気がしている。
それだけが今のわたしの救いで、そうしてわたしは、先生のかたちの
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こころの大きなすきまをうめて
10/0121