「あーあ、こんなにしちゃって」
「なまえ、直るか、直るかな?」
「ダイジョブ、なまえ様にお任せなさい」
「おー!」
帽子は、ナミの役目。服はどうやらわたしの役目。
チクチクチクチク、今日もルフィは派手に破いてしまった。
「やっぱりルフィには赤のチョッキね」
「ベストだろ?」
「えぇ、Bestよ」
「チョッキって何だ?」
「直帰?会社に戻らずにそのまま帰ることよ」
「???」
ルフィはかわいい。
「赤のチョッキって、言ったろ?」
「うん」
「チョッキって何だ?」
「会社に戻らず……」
「違ぇ!」
頭を撫でたら、プイっと拗ねてしまった。
チョッキの修繕を終えると、ルフィは元気に飛び出した。
今日もお天気。ルフィには本当に日向が似合う。
さて、と。
「どこかにあったはず」
ゴソゴソ、と本棚を漁るわたしを、どうやら窓から覗いていたようだ。
ルフィは、本当にかわいい。
「ねずみくんの、チョッキ?」
「そう、ルフィ読んだことない?」
「ないっ」
満天の星空の下、ランプを片手に見張り台で過ごす一夜。
初めて一緒に過ごした夜に「はらぺこあおむし」を読んであげてから度々絵本を持ち込むことになった。
「赤いベスト着てるぞ」
「チョッキよ、これは」
「ベストはチョッキなのか?」
「違うわ、チョッキなのよ」
「ふーん」
俺のも、チョッキだったのか。しげしげとチョッキを眺める。
「辞書によるとね」
「なんだ?」
「…ロビンの本によるとね」
「ああ」
「チョッキとベストは同じものを指すらしいの」
「?」
「つまりね、チョッキはベストでベストはチョッキなのよ」
「…ふーん」
「おかしいでしょ?」
「ふん」
「ベストはベストよ、だからチョッキはチョッキなの」
「なまえ」
「でも、わたしにはなにがベストでなにがチョッキか、分からないの」
「……、俺の服はチョッキだろ?」
「、でもルフィがベストって言うんなら」
「ベストなのか?」
「、きっと」
「…ふーん」
難しいな、ししし。ルフィは笑って見せた。
それから不意に、爪いじりをはじめた。
「可愛いふかづめ」
「…かわいく、ねえ!」
鼻の頭のしわも、可愛いふかづめも、ボロボロのチョッキも、偉大なむぎわらぼうしも、嗚呼愛しい
頬の傷に口づけすると、しゅんと下を向くルフィも
「……やっぱりかわいい」
「なまえ、はやく、ネズミのチョッキ読んでくれよ!」
「ネズミくん」
「ネズミくん!」
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嗚呼愛しい
09/1115